2016年10月に発売された食器用洗剤「キュキュット」ブランドの新製品「キュキュット CLEAR泡スプレー」。食器やキッチン用品のスポンジでは洗いにくい部分に直接スプレーしてすすぐだけで洗浄・除菌ができ、主婦をはじめとする幅広い層から支持されている。発売直後から大きく販売数を伸ばし、これまでに1150万本(2018年1月末時点)を売り上げているヒットの要因とは。

「キュキュット CLEAR泡スプレー」は、昨年の日経優秀製品・サービス賞で日経MJ賞の最優秀賞を受賞。従来の洗剤ではカバーしきれない隠れたニーズを的確に捉え、画期的な商品として注目を浴びている。しかしプロモーション面においては、これまでにない商品であればあるほど使い方や魅力を明確に伝えることは難しい。発売直後から人気を博した同商品ではどのような工夫をしたのか。ブランドマネジャーを務める小出敏治氏に聞いた。

花王 コンシューマープロダクツ事業部門
ホームケア事業部 ブランドマネージャー
小出 敏治 氏
―「キュキュット CLEAR泡スプレー」は、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。
そもそもの前提として、食器用洗剤はまだ進化の余地があるカテゴリーだと捉えていました。というのも、たとえばシャンプーはスクイズ式(ボトルを逆さにして中身を押し出す形)からポンプ式に、洗濯は全自動にまで進化している一方、食器用洗剤は数十年間の長い間、スポンジを使って洗われています。
そこで、現代における3つのニーズに着目し、それらをテーマとして新しい形の商品に生まれ変わらせられないかと考えました。1つめは、限られた時間のなかで質を落とすことなく、効率的に家事をこなしたいという「スマート家事」へのニーズ。2つめは、インフルエンザやノロウイルス、一時期はなかったデング熱の流行など目に見えない菌への衛生面での脅威が増していることから、衛生面を徹底したいというニーズ。
そして3つめは、効率的に料理ができる一方、洗いづらいキッチンツールもすみずみまできれいにしたい、というニーズです。たとえば、ミキサーには刃や細かいパーツがありますが、スポンジだと洗いたいところに届かなかったり、刃でスポンジが切れてしまったり、場合によっては手をケガしてしまったりするなど、しっかり洗えず大変な手間もかかっていました。
それらのニーズに応えるには、これまでのように洗剤をスポンジに取って洗う方法とは別の方法を考え出す必要がある。それで、「キュキュット CLEAR泡スプレー」の開発がスタートしたんです。
開発過程で消費者調査をしてみると、「言われてみれば、弁当箱の縁にヌメリが残っていて気になっていた」「水筒の中やフタが洗いにくく、実は洗えているかどうか不安だった」といった声が集まりました。具体的な物は違っても「洗いにくい部分もちゃんときれいにしたい」というニーズは共通していることがわかりました。
開発期間は9年と、製品化には長い時間がかかりました。これまでの食器洗いは洗剤の洗浄力と、スポンジでこすり、手を使ってすすぐという物理的な力が欠かせませんでした。新製品はスポンジや手を使わなくても、汚れに直接スプレーして水で流せばきれいになるのが目標。その技術を実現するのにとても苦労しましたね。
発売後は予想通り消費者のニーズに合致し、大変な好評を博しています。当社にとっても、従来の洗剤で洗えない部分へのプラスワンとして使う商品であることから、市場が広がりました。これからの商品開発には、食器洗いの衛生観念の盲点を突くことが必要なのだと思います …