オフライン・オンラインの販売チャネルを連携させることの重要性は、誰しもが認めるところだろう。各社がそれぞれのやり方を追求しようとしている。青山商事のスーツ専門店「洋服の青山」では、デジタルサイネージなどを用いて、店頭でオンライン在庫からも買える仕組みを昨年に導入。店頭在庫がなくても、商品を求める気持ちをうまく引き出している。

一般の1/4の面積せまいながらも都心へ進出
青山商事は2016年10月、東京・秋葉原に新業態店舗「デジタル・ラボ」をオープンした。約1年を経て、ことし9月には、「デジタル・ラボ」二号店となる「洋服の青山 東急プラザ蒲田店」(東京・大田)、三号店「洋服の青山 島忠ホームズ仙川店」(東京・調布)に相次いで出店。好調な営業を続けている。
「デジタル・ラボ」の目玉は、店頭に設置した3基のデジタルサイネージや、タブレット端末経由で、その場でEコマース(EC)に対応すること。オンライン在庫を店頭からでも購入できるようにした理由のひとつは、売り場面積だ。秋葉原の一号店は約52坪(約172平方メートル)、蒲田の二号店は約56坪(約185平方メートル)、仙川の三号店は約69坪(約228平方メートル)と、いずれも決して広くはない。
一方、青山商事は公式オンラインストアで、倉庫と各地の店頭在庫を合わせ約1000万点を販売している。ECだけで17億円ほどの売り上げがあるという。豊富な品揃えを背景に、小さな売り場でもECを組み合わせれば、「一般的な広さの店舗に引けを取らない販売ができるはず」との目論見だ。
スーツの専門店は当然ながらスーツの品揃えが勝負となる。むしろ青山商事は、業界に先んじて1974年、広い売り場を確保できる郊外立地の紳士服専門店をオープンした企業だ。以後の出店は、郊外型店舗が中心となった。
郊外型店舗を優先したのは、創業者で初代社長の青山五郎氏が、スーツを来店客に快適に納得できる品揃えを目指したためだった。1つのサイズあたりに20着〜30着、少なくとも1500着は揃えよう、という方針を掲げ、郊外の敷地の広い店舗を求めた。この方針は最近まで続き、「洋服の青山」の平均坪数は200坪(約660平方メートル)だという。
しかし、郊外への出店が飽和状態になると、都心部への進出を考えなくてはならない。従来と同等の広さが得られる場所は多くなく、また、賃料もかさむ。
「デジタル・ラボ」をオープンした秋葉原も、青山商事にとってぜひとも進出したい空白地帯だったが、平均店舗の4分の1、50坪(約165平方メートル)しか空いていない、という条件が課題だった。
「社内でも議論しましたが、結論は、50坪でやってみよう、と。ただ素手で戦っても勝ち目はありませんから、何か武器となるものはないか。それでEコマース(EC)との相乗効果を最大化する店舗にしよう、ということになったのです」
EC連携が生み出した小型店ならではの売り方
それまでの郊外店でも、ECとの連携には力を入れてきた。たとえば「試着予約」。公式オンラインストアで申し込むと、指定した「洋服の青山」店舗に試着したい商品を取り寄せられる。購入価格は予約時のオンラインストアの表示価格か、店舗のセール価格を適用する。
当初、「デジタル・ラボ」では、店頭に設置した端末を操作してもらい、着てみたい服を取り寄せることを考えた。それで店頭在庫を増やせない状況を補おうとしたのだ。
しかし、うまくいかないだろうことはすぐにわかった。結局、また店に来なくてはならないのが、利用者に不便を強いることになるからだ。「そこで、インターネットにつながった大きなデジタルサイネージを置くことにしました。試着したい理由のひとつは、実物を見てみたいから、というもの。できるだけ現物に近いものをお見せできればよいので、実際のスーツのサイズに近い状況で柄などの確認ができるようにしたのです。着心地やサイズは同じ型紙の商品でも確かめられるので」 ...