あらゆる生活シーンにデジタルが浸透した現代だからこそ、アナログなダイレクトメール(DM)の価値が見直されはじめている。優れたDMを表彰する日本最大級の「全日本DM大賞」で10年連続受賞という偉業を達成したフュージョンに、同賞での入賞作品や再定義されるDMの価値について聞いた。

重視されるのは人を動かし成果をあげられたかどうか
デジタルの浸透によって、企業は大量の情報を効率的に発信できるようになった。その一方で、膨大な量の情報をシャワーのように浴び続けている消費者に対し、企業から発信する広告は効きづらくなったと言われて久しい。それでも、一人ひとりにきちんと見てもらえるような情報の届け方はないか──こうした課題を持つ企業は少なくない。
「企業がターゲットとする消費者に対して最適なアプローチをするには、アナログもデジタルも含め、あらゆる接触のポイントを俯瞰して考えなければなりません。その上で、情報を届けるのに最適なツールを選択する必要性が、年々増しています」と話すのは、フュージョンの佐々木卓也・代表取締役社長だ。
フュージョンは、ダイレクトマーケティングを基軸として、コンサルティング、調査・分析、設計・構築を行う総合マーケティング会社。さらに同社は、日本郵便が毎年実施する「全日本DM大賞」で、10年連続受賞という偉業を達成している。
全日本DM大賞は、過去1年間に企業が実際に発送したDMを全国から募り、広告戦略として優れたDM作品を表彰する賞。1987年から毎年実施し、ことし32回を迎えた。
DMと言えば、企業が個人に直接メッセージを届ける手段だが、昨今のDMはそれだけにとどまらない。全日本DM大賞の入賞作品はどれも戦略性があり、審査基準でも実際に人を動かした成果を重視する。フュージョンの入賞作品も、大きな成果を残したものだ。
前回・第31回全日本DM大賞では、銀賞・銅賞・日本郵便特別賞を受賞した。たとえば銀賞を受賞した、学習院大学の志願者獲得のために制作された受験生を励ますクリスマスカードのDMは、志願者数が前年比で151.9%伸び、過去10年間で最高数の志願者を集めた。
また銅賞を受賞した、イオンモールの来店率・買い回り率向上を目的としたDMは、開くとケーキが飛び出すポップなデザインで多くのファンを獲得。来店率・買い回り店舗数が大きく伸びただけでなく、DMで特典を紹介したテナントの来店率まで向上するという、予想を超える成果をあげた。
こうしたDMの魅力を、フュージョンのプロモーション・プランナーとしてDM制作を担当する田村亮子氏は次のように話す。
「DMは受取った人の手元に形として残ります。見て、触って、読んでと、五感で感じることができるところが、メディアとしての一番の強みだと思います。とくにいまの若い世代はソーシャルメディアをはじめ、オンラインで広告に触れる回数が増えています。そうしたこともあり、DMをデジタルの平面な広告とは違う、新鮮なものとして捉える人が増えているようです」

前回の「第31回 全日本DM大賞」でフュージョンが受賞した作品。いずれも数値的な成果をあげたという。
顧客獲得はWebを通じて、顧客維持は紙のDMで
フュージョンでは、このように人を動かすDMをどのように作っているのか。「DMの原理・原則は、ターゲット、オファー、タイミング、クリエイティブをきちんと網羅することです。そのために当社が最も大切にしていることは、クライアントの理念やビジョン、事業のゴールといったことを徹底的に聞き取って課題を共有すること。それにより、届けたい消費者像に対する理解を深めているのです」(佐々木氏)
同社では、データからセグメンテーションを行うチーム、クリエイティブチーム、施策に対するレスポンスを可視化するチームがあり、この3つのチームが、クライアントも巻き込んで、セグメンテーションから効果検証までワンストップで行い、ゴールへの道筋を考えていく。
紙媒体を新しいと感じる若い世代は、面白いと思ったものは、写真に撮ってソーシャルメディアに投稿したり、続きが気になればWebサイトを訪問する。それはつまり、DMがWebサイトへのフックにもなることも意味する。
先に紹介した学習院大学のクリスマスカードは、1面の緑のツリーの扉を開くと、「桜の季節にお会いしましょう。」というコピーとともに満開の桜のツリーが現れる。受験シーズンを前にクリスマスを楽しめない受験生に、「厳しい冬(受験勉強)を乗り切ると、春(合格)が待っている」というポジティブなメッセージを送るものだが、このカードは一気にソーシャルメディアで話題になった。
「ていねいな対応でうれしい」といった好意的な反響があり、実際の志願者の獲得につながったという。フュージョンでは、大量生産のDMではなく、こうしたデジタルではできない、手の込んだ立体的なDMを作るように心がけている。
全日本DM大賞での10年連続受賞の実績は、ビジネスにも好影響をもたらしている。年を追うごとに、受賞実績を理由にした引き合いが増えており、佐々木氏は、「企業がDMにチャレンジしたいと思った時に、受賞実績そのものがパートナーを探す一つの基準になっているようです」と言う。
最近ではBtoB企業や外資系企業からの相談も増えた。Webサービス会社などのデジタル専業の企業が、顧客獲得はWebを通じて行う一方、顧客維持はあえて紙のDMを出すケースも見受けられるようになった。
「大切なお客さまに感謝の気持ちを伝えたい、強い絆を結びたいといった時、コストは少々かかっても、手元に残る手の込んだDMを送りたいと考える企業は確実に増えています」と佐々木氏が話す一方で、「DMはマス広告やデジタル広告と違い、ほかの企業の制作物を見たり、その成果を知ったりする機会がほとんどありません。全日本DM大賞に参加して初めて、日本各地の企業が制作した、優れたDMを多く見ることができました。これはクリエイターとして、とても刺激的で貴重な経験でもあります。こうした場に多くの企業が参加して、クリエイター同士のコミュニケーションが活性化していけば、業界全体がもっと盛り上がっていくのではないかと感じています」と田村氏は言う。

フュージョン
代表取締役社長
佐々木 卓也氏

同 プランニング/ダイレクトプロモーショングループ
企画推進部
田村 亮子氏
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応募締切は10月31日(火)
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