服が売れなくなってもなお、アパレル業界は縮小するパイの争奪戦に消耗してきた。そもそも、なぜアパレルは衰退したのか。そして復活の道はあるのか。その源泉にある消費トレンドとインサイトについて考える短期連載。

上昇するシルバー消費と百貨店の今
先日、老齢の母が上京した。地元のジム「カーブス」に毎日通っているために、年齢のわりには姿勢もよく、腹筋もわれそうなくらい腕も脚もしっかりしていて驚いた。O百貨店のレストラン階でうなぎを食べながら、「1枚、ジャケットを買いたい」という。
そのまま、下の階の婦人服売り場へ行けば買えると思った。しかし、ここにあるのは1枚10万円以上の高級品と、20歳代OL向けの大手アパレルのブランドばかり。週末だというのに、店内はガラガラ。販売員は暇をもてあましている。高齢の母を連れて広い店内を歩くのもしんどい。しかし、お目当ての服も予算もあるのに、まったく欲しいものが見つからないのだ。
30分もしたら二人ともへとへと。結局近くの伊勢丹、それも大きなサイズ売り場へ行って、やっと1枚、カットソー素材のロングジャケットを買った。しかし母にとってはまだ不満だ。欲しいのは(東京都知事の)小池百合子さんが着ていた紺のすっきりしたジャケットだったから(笑)。しかし結局、伊勢丹の地下で存分にデパ地下を楽しんで、「とらや」のようかんを買い、帰って行った。
ショップチャンネルの威力
リタイアした65歳以上のシルバー市場は2012年調べ※で68.5兆円、2025年には100兆円を超えるといわれる。時間もお金もあるゴールデンエイジだ。しかし彼らが抱えているショッピングのしんどさはより顕在化している。
※みずほ銀行産業調査部作成 「高齢者市場への取組みの考察:社会的課題解決に向けて」
筆者は先月、テレビショッピングの「ショップチャンネル」に出演した。CS放送とケーブルテレビで毎日、生放送で商品を売っている。中心ユーザーはお茶の間の住人だ。特にアクティブなのは40歳代から60歳代の女性。番組は2時間。私が起用されたのは、バイヤーが北欧で買い付けてきたアイテムを紹介する番組だった。
次々とピックアップされる商品をモデルが着用して披露する横で、司会進行役のキャストが商品説明をする。私の役割は、そのブランドやアイテムが、買うべき商品であると解説すること。出演者側から見えるモニターには商品の残り状況が色で示されている。青は在庫あり、黄色は残数わずか、赤は完売。商品を説明しているそばから、その色が移り変わっていく。ファーのバッグは10万円を超える。
「はい!いま残り10点を切りました!ありがとうございます。お求めのお客さま、残りわずかです!」
テレビの前の消費者に向けて、事細かく商品を説明していく。「この素材は◯◯で、洗濯機で洗えます」「ネックレスの金具はとても使いやすいです」「後ろ側はこんなデザインになっています」──家庭でテレビ画面を見ているユーザーのかゆいところに手が届く、そんな説明が繰り返される ...