おいしい料理の提供はもちろん、来店客がリピーターになり、さらに口コミなどでまわり囲に広めたくなる演出とは─パルコでオムニチャネル戦略などを推進する林直孝氏に、一人の客として口コミしたくなるお店について語ってもらった。
「週末夜限定」「魚を活かす」口コミしたくなる2つの仕掛け
「口コミしたくなるお店」というテーマを聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのが今回ご紹介するお店です。私が人に話したくなった仕掛けのひとつめは、「週末夜限定開店」です。
湘南・辻堂の海岸近くに、そのお店はあります。ふだんは「TOASTED(トーステッド)」という、焼きたてのサンドイッチ・トーストを提供する地元の人気店なのですが、毎週金曜日と土曜日の夜だけ、別のシェフが営む、お魚料理がメインのレストランとして営業するのです。
口コミしたくなる要素の定番のひとつに「○○限定」というのがあります。ご紹介するお店は、最近我々もよく聞くようになった「シェアリング」でお店を借りて、オーナーのライフスタイルに合わせて営業する「週末夜限定」のお店なんですね。
週末の昼、ふらりと立ち寄った「TOASTED」のカウンターでふと目に留まったのが、港を背景に右手に包丁、左手にお魚を持ってほほえむ不思議な青年が写った「Kai's Kitchen(カイズ・キッチン)辻堂」のチラシでした(下)。

チラシを凝視している客に気づいた「TOASTED」の店主は、「待ってました」とばかりに、その週末夜限定のレストランについて語りはじめました。「Kai's Kitchen」こそ、その週末夜限定店。そう、私もその店主の口コミでこのお店を知った一人なのです。
店主の話でとても気になったのが、ふたつめの口コミしたくなる仕掛け「捨てられる魚を活かす」ことです。「Kai's Kitchen」のシェフである甲斐昴成(かいこうせい)さんは、無類の魚好き。
近くの江ノ島漁港などの魚市場に通っては、「市場で値がつかず捨てられてしまうけど、食べたらおいしいマイナーな魚たち」を仕入れ、「自分が料理として提供することでお客さまに知ってもらいたい」と言います。「TOASTED」の店主の話を聞きながらスマートフォンで検索した「Kai's Kitchen」のWebサイトには、こんなすてきなメッセージが書かれていました。
「知られていなかった魚が市場に出回って、たくさんの人が笑顔になる。皆様の幸せの延長線上に日本の漁業の変革もある。」この文章を読んで、私は「包丁を持った魚キュレーター」とも言える、甲斐さんに会ってみたくなったのです ...