1716年の創業以来、300年にわたり日本の工芸品を扱ってきた老舗「中川政七商店」。同社の「中川政七商店 オンラインショップ」は、店舗を巻き込みながら著しい進化を遂げている。執行役員CDOの緒方恵氏に、店舗×ネットの活用術を聞いた。

店舗とネットの相乗効果で 全社としての売り上げを伸ばす
─中川政七商店におけるECサイトの役割をどう位置付けていますか。
中川政七商店は基本的には店舗がメインで、ECサイトは店舗ではできないことを補い、店舗の魅力を強化する存在であるということが前提です。たとえば、店舗では色やサイズごとにすべての在庫を常に確保するのは困難ですが、ネットであれば多くの在庫を抱えることができます。また、店舗では食器をはじめ、商品によっては実際の使用シーンを見せられませんが、サイトなら画像や動画で使用シーンを伝えられます。
当然その逆もあって、ネットでは実際に手に取って商品の質感を確かめることはできませんが、店舗であればそれができる。このように、不便な部分は補い合い、良い部分を伸ばし合うことで、リアル店舗とネットが相互に補完し合う関係を築くようにしています。
よく店舗とネットで明確に役割分担して、売り上げを個別で分析するケースが見られますが、会社として追いかける数字の軸は縦割りだけだと、あまりよくない。それよりも店舗とネットの強みを掛け合わせて、会社全体の購買率・金額を上げることに着目すべきだと思います。
たとえば、新人のスタッフが店舗でお客さまに質問された際、商品によっては知識不足で説明できない場合もあります。そこでスマートフォンを取り出してサッとサイトの商品ページが出てくるようにしておけば、接客補助になる上に商品ページを見ながら動画や写真など店舗だけでは伝えきれない情報も併せて伝えられるようになる。そうするとクロージングしやすくなって売り上げもアップしますし、サイトの存在を明確に認知すればユーザーの利便性も上がります。
どうしてもリアル店舗での接客だと、情報を伝えられる量(接客可能数)に限界があります。それがネットを活用することで、接客の量としての拡大ができることに加え、その質も上がる。店舗とネットの相乗効果で全社の売り上げを伸ばしていきたいです。
─実際に、店舗の接客でECサイトが大きく貢献した例はありますか。
かもしか道具店の「すり鉢」を使う動画をつくり、サイトとソーシャルメディアで流しました。「接客に役立つ!」ということで店舗からの反応がすごく良かったですね。すり鉢は商品だけだと作れる料理まではすぐにイメージしにくいですが、この動画ではゴマあえを作ったり、ポテトサラダを作ったり、たまご入りとろろかけごはんを作ったりと、「おいしそう」と感じてもらえそうなポイントをいくつか用意しました。
その結果、Facebookでの「いいね!」数が4000件を超え、店舗にも問い合わせが殺到しました。再入荷問い合わせも通常は数件前後なんですが、「すり鉢」は数百件以上の問い合わせが入っています。
人の心を動かす時は、感動をもとに感情に訴えかけることが重要です。買う人がなにに感動するのか、ですね。そのためコンテンツ制作では、感動させるためのしかけ作りを意識しています。今回で言うと「おいしそう」がその感動にあたります。商品のスペック説明をするのではなく、この商品がもつ「おいしそう」を見せる、ということです。そして、それを見たお客さまには、この「おいしそうを体験したい!」と思ってもらいたいんです。

店舗から「接客に役立つ」として好評だった動画。すり鉢が使用シーンを動画で表現することで、その用途を感情に訴えかけることに成功した事例だ。
トライ&エラーを多く繰り返し 効果を見て法則を見いだす
やはり「商品」ではなく「体験」を提供できるのが優秀なコンテンツだと感じています。ネットでその商品の「体験」を届け、想像させられれば、「商品」を売る店舗への導線作りにつながります。UI/UXやシステム上のインフラ整備をしていくだけではなく、コンテンツそのものの質を上げていかないといけない。
サイトのコンテンツ制作を担当するチームにはこうした考え方を日々伝えて、鍛えています。あくまで主役は商品ではなく使う人。そして人はどういったコンテンツであれば響くのかは、届ける「コト」へのフォーカスが大事だと考えています ...