以前からデータ活用を重視したマーケティングに取り組んできた花王。同社の情報システム部門でのシステム開発とマーケティング部門でのデータ分析をそれぞれ10年以上経験した後、現在はデジタルマーケティングセンター データサイエンス室に所属する佐藤満紀氏にデータ活用の極意について聞いた。
「スモールマス」に着目し データ活用で打率アップを図る
─昨今、消費者の多様化によってデータ分析をとりまく状況は大きく変化しています。花王のデータサイエンス室は、データをどのようにとらえ、分析しているのでしょうか。
花王にはもともとデータ分析や調査を重視する文化があります。データサイエンス室は、2014年に設立されたデジタルマーケティングセンターの中で、データ分析を中心にマーケティング活動を推進する立場にあります。
データサイエンス室におけるデータ分析には大きく分けて2つの役割があり、ひとつはお客さまの理解、もうひとつは施策の効果検証です。
現時点では前者が実際の活動の大半を占めており、購買データやソーシャルメディアの投稿文、商品レビューなどで得られる生の声を広く集めて、お客さまの理解につながる分析に取り組んでいます。
具体的には、Twitterやブログ、Instagram、Eコマースサイトや口コミサイトのレビューの書き込みなど、Webに投稿された一般ユーザーの声などからお客さまのインサイトにつながるヒントを見つけ出す分析が増えています。
その際に心がけているのは、ピンポイントでひとつの商品やブランドを見るのではなく、できるかぎり幅広い視野で見ること。商品やブランドについての投稿はもちろん一人ひとりの意見としては貴重なのですが、その前に全体としての大きな傾向を把握することが、ビジネスにとって重要だと思います。
そのためには多数の人が全体としてどのような意見を持っているかに着目します。数十万件という大量のレビューを集めてテキストマイニングを行い、どの程度のボリュームの話題がいくつぐらいあるのかを確認することで、事業部門や販売部門が設定した仮説を検証します。
昨今では、暮らしが豊かになり生活が多様化したことで、テレビCMをはじめとするマス広告だけでは消費者に商品やブランドの訴求が伝わりにくくなっています。また、花王が提供している日用品は、以前のようにハイスペックな商品を開発しても受け入れられるとは限りません。
例えば、近年では年末などに発表されるヒット商品の番付ランキングの上位を占めるのは、必ずしも高性能な商品ではなく、時代をとらえたサービスやトレンドが目立ちます。
そうした時代背景を踏まえ、当社ではマスの市場だけではなく、「相互につながっているコミュニティで形成された小規模でも濃厚な集団」にも着目しはじめました。この市場を「スモールマス」と呼んでいます。
「スモールマス市場」向けのプロモーションは、ヒット商品番付にランクインするようなホームランには向きません。むしろ確実に小〜中ヒットを増やすための活動が重要になってきます。この打率を上げることで、商品やブランドの根強いファンをつくることができるのです。
数字と生の声を重んじる “普通の人の感覚”第一主義
─現場では、どのように仮説を導き出し、検証しているのでしょうか。
本来、データ分析における仮説は自由に設定されるべきだと考えています。私たちデータサイエンス室の業務は、他部門から届いた仮説を念頭に置き、データを通じてお客さまの理解を深めること ...