データ分析は「仮説ありき」─適切な仮説と検証を重ねるアプローチを繰り返してこそ、数字に埋もれることなく真の顧客像にたどり着くことができる。では、仮説はどんなふうに立てることが望ましいか。キリン リサーチ室の野沢誠治氏に、「仮説設定術」について解説してもらった。
「傾向」から一歩踏み込んで、顧客の姿を探るための仮説思考
──あらゆるデータの取得が可能になり、データ収集と分析に追われて「分析そのもの」が目的化してしまうケースもあります。キリンのCSV本部リサーチ室では、どのようにデータを扱っているのですか。
リサーチ室は、キリンの事業会社(キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンなど)のマーケティング・経営の意思決定や営業活動をサポートしています。自社の販売データやお客さまへの調査データをはじめ、流通での商品の販売状況を知るためのPOSデータ、お客さまの購買動向を知るための購買履歴データ、昨今ではソーシャルメディアのデータも取得・分析しています。
近年の流通や営業現場ではポイントカードの普及に伴い、ID付きPOSデータが見られるようになりました。「何が」「いつ」「いくつ」「いくらで」売れたのかというPOSの情報に加えて、「誰が買ったのか」のデータを取得できるようになったんです。
そしてこのような特性を生かしてできることも増えました。例えば、お客さまの併買データにクラスター分析※をかければ、「買いやすいブランド・商品群」を定量的に算出でき、棚割や施策に生かすことが可能になります。
ただし、定量的なデータや分析は、全体の傾向や構造を知るのに有効ですが、その背景やそれが起こった理由を知ることはさらに重要です。有効な施策やプロモーションにつなげるためには、お客さまの真のニーズや価値に迫る必要があるからです。
例えば、売り上げ推移のデータを見て、上がったか下がったかということだけではなく、なぜこういった結果になったのか、「誰が」「なぜ」「どのように」買った結果なのかということを追及することこそ、“顧客の真の姿”に迫ることにつながります。
「なぜ」「どのように」といった顧客の潜在的な心理は、ただ調査すればわかるというものではありません。仮説と検証を繰り返し、仮説そのものをブラッシュアップすることで導き出されるものです。ただ実際のところ、同じ数字を見ても、良い仮説を導ける人と、そうでない人がいるのも事実です。
─どのようにすれば、有効な仮説を導けるのでしょうか。
仮説を導くプロセスでは、数字をどのように見たらよいのかが問われます。そこで重要なのは、「その結果になった理由を説明できるようにする」ということです。売り上げ推移のデータを見てすぐにわかればよいのですが、そうでないときは分析してみます。
例えば、ビールの場合、月次の売り上げ推移データを見ても、夏に高く冬に低いという月次の変動が大きく、その背景や起こっている理由を説明するどころか、トレンドとして上昇しているのか下降しているのかさえわかりません。
そこで売り上げ推移のデータを、時系列分析で、「傾向変動」「季節変動」「不規則変動」のように要因分解をしてみます。すると、傾向変動から明らかに上昇傾向にあることがわかります。特に2014年からですね。この時点でなぜ売り上げが伸び始めたのか、背景は何かと考えるんです。
また、不規則変動の2014年3月、4月に変動が大きくなっています。それはなぜか考えてみると、消費税の引き上げが思いあたります。つまり、4月の消費税の引き上げで3月に仮需が起こり、その分4月の需要が落ち込んだと説明できるのです。
漠然とした全体傾向ではなく、売り上げの背景を説明してみること。そこで説明できない点、不自然な点に仮説を立てるヒントが ...