「元カレが、サンタクロース。」「この広告の掲載費なんぼや?」など、ユニークな広告で知られるブランド買取「なんぼや」。グループ全体で全国42店鋪を運営するSOUの嵜本晋輔社長は、かつてガンバ大阪でプレーしていた元Jリーガーでもある。2011年の創業から3期連続で前年比200%の急成長を遂げ、ことし9月時点の売上高は約220億円。リユース業界に新たな風を吹き込む。
―現場力をどのように捉えていますか。
スタッフ自らが行動して、自分の意志でお客さまを満足させることが現場力だと考えています。世の中で何が起こり、どのようなニーズが生まれているか。一人ひとりのスタッフが誰よりも先に把握し、すぐにそのニーズを満たすための行動ができれば、自ずと企業は成長していくと考えています。
当社のスタッフたちは、目の前のお客さまをしっかりともてなし、「また来たい」と当たり前に感じていただけるよう、常に意識を高く持ちながら日々の業務に臨んでくれています。全員がプロ意識で仕事に臨めれば、スタッフ自身の価値も、会社自体の価値も高まるはずです。
―リユース事業の中でも、「接客」を非常に重視されていますね。
中古の貴金属や時計、ブランド品は、需要に合わせて相場価格が変動します。私たちもライバル企業も、同じような中古相場のデータをもとに、買取に臨むことになる。つまり、買取価格だけで他社と差別化したり、業界で生き残ることはできないのです。だからこそ、現場スタッフの接客力に付加価値を感じていただくことが重要になると考えています。
一般的に、企業と消費者の持つ商品やサービスに関する情報量は異なります。企業のほうが情報を多く持っているからこそ成り立つビジネスもありますが、リユース業界は、お客さま自身もスマートフォン一つでどこにいても、中古相場について調べられます。昨今はとくにソーシャルメディアにより、お客さまと我々企業側と、情報の差がどんどん縮まっているのです。
今後さらに情報化社会が進めば、買取価格での勝負はますます激化していくでしょう。そうなったとき、接客で他社と差別化を図れれば、当社により価値を見出してくれるのではないかと考えています。そうした思いで、以前から接客にフォーカスした店舗を増やしてきました。
接客へのフォーカスは、この業界としては新しい視点ではないかと思います。従来、リユース業界では買取価格だけで売買が成約することがほとんどだったからです。しかし、私たちはお客さまに納得いただけるように、どのように買取価格が弾き出されたかという背景など、求められる情報をしっかりと提供することを徹底しています。
そのためにも、お客さまと商品の出会いから別れまでのストーリーをしっかりとヒアリングすることは欠かせません。商品のモデルや年代、状態が同じだとしても、お客さまと商品のストーリーはそれぞれ違います。例えば、「もう見たくない」と思っている元カレからもらったバッグと、自分がコツコツとお金を貯めて買ったバッグでは、価値が異なるのは当然です。極端な話ですが、お客さまの思い入れがある商品であれば、できるだけ高く買い取る努力をしなければならないという考えを持っています。
商品とのストーリーをしっかりと紐解いて接客をすれば、「また何か売りたい」と思ったときに、私たちの顔を思い出してもらえる。実際に現在の売上高の約3割から4割は、リピーターの方からの売り上げで成り立っています。現場にいるスタッフが目の前にいるお客さまを満足させることで、再来店につなげることができているのではないでしょうか。
―鑑定士を“コンシェルジュ”と表現したのは、どのような意図があるのでしょうか。
以前はスタッフのことを“バイヤー”や“鑑定士”と呼んでいました。ただ、それでは名前の通り、“買う人”、“鑑定する人”で終わってしまいます。一方で、“コンシェルジュ”という言葉を使うと、お客さまに対して価値を生み出すことがスタッフに対しても意識づけできます。意図的にコンシェルジュという名称に変更して、スタッフに付加価値を生み出す意識づけをした結果、2013年頃から「鑑定だけでなくお客さまをしっかりもてなし、付加価値を提供する」という考えがスタッフに浸透していきました。
言葉には大きな力があり、以前に“ジャンル課”と呼ばれていた商品の専門家が在籍する部署を“プロダクトスペシャリスト”という呼び方に変えたことがあります。肩書を変えるだけで相手からの見られ方も変わり、スタッフも名前に恥じないような仕事ぶりに変わっていきました。今後も、言葉を扱うことを意識しないといけないと考えています ...