癒しの空間と会話でブランドの世界へ誘う、テラリウム表参道
アルビオンは3月、東京・表参道に新業態「テラリウム表参道」をオープン。自然派コスメ「インフィオレ」シリーズを販売するほか、無料で試せる足湯もあり、同社の考えるオーガニックカルチャーを発信する。体験できる場を多く設けた同店では、店員がどんな提案をしているのか。
「店員力」で売り上げを伸ばす
誰しも買い物でちょっとした“冒険”をし、「買ってよかった」と思うことがあったはずだ。“冒険”が成功すれば、またその店に行きたくなるものではないだろうか。一方、「しまった…」と後悔したこともあるだろう。そうなると、なかなか足は向きづらくなる。来店者の“冒険”をサポートし、成否を左右するキーパーソンこそ、ショップスタッフではないか。プロとしてアドバイスで、来店者を引きつけるスタッフを、各ブランドに紹介してもらった。
「『ご自身では選ばれないだろうな』そんなお洋服をご提案して、次にご来店いただけた際、おすすめしたアイテムに満足いただき、喜ばれた様子をお聞きできるのが、一番うれしい。ただ、それをご提案するには、信頼いただけることが不可欠だと痛感します」─。
そう話すのは、アパレルブランド「JEANASIS」(アダストリア)でグループマネジャーを務める佐藤倫子氏だ。30歳代にさしかかったばかりだが、複数店舗を束ねるグループマネジャーを務める。快活で自然体のかわいらしさを覗かせる人物だ。マネジャー職の傍ら、いまも店頭に立って接客を行う。
佐藤氏は転職組。アダストリアへ入社する前もアパレルブランドで働いていたが、現在担当しているブランド「JEANASIS」のようなモード系とは、対照的なテイストの“ヒッピー系”のブランドだった。それでも、前職で接客していた人々が、佐藤氏に会うために「JEANASIS」を訪れるという。腕利きの料理人や美容師は「人に客がつく」と言われるが、そのアパレル版と言えそうだ。社内では、人事部主催の販売力強化研修でトレーナー、講師役を務めるなど、後進の育成にもあたっている。漠然とした精神論ではなく、具体的なフィードバックが好評という。そんな佐藤氏に、喜ばれる接客について話を聞いた。
「よく、お客さまと向き合え、と言われると思いますが、実は『向き合って』しまってはダメなんです」。佐藤氏はこう話す。「お客さまと、同じものを見るように努力をすることが大事です。向き合ってしまうと、どうしてもスタッフ側の主観が入ってしまい、批評するようなことにもなりかねないと思います。あくまでも重要なのは、お客さまの主観なんです」。
では、どうやって、来店者の主観を共有するのだろうか。そのカギは「観察力と想像力にある」という。そう尋ねると、佐藤氏の口からは次つにに、具体的な観察のポイントが飛び出した。
「来店されたのは何時ごろか」「どんな服で来られたか」「お客さまのメイクはどんなテイストだったか」「シューズはスニーカーか、それともヒールのあるものか」「ネイルはどんなものだったか」「店内を歩くスピードはどれくらいだったか」─。見るポイントは枚挙に暇がない。「初対面の人に、自分のすべてをさらけ出せる人なんていません。かと言って、ポイントを外したご質問をしても、その方のことを知るのは難しい。だから細かな点まで、お客さまを観察することが大事。その上で、どんな方かを組み立てて、少しずつ質問をしていくんです」。
どんな仕事をしているのか、どんな環境で暮らし、働いているのか。職場はオフィスカジュアルか、それとも制服か。人前に出ることが多いか、それともデスクワークがメインか。勤務時間帯はいつか、休日はいつか。周囲の人の服装も重要だという。もちろん、突然には聞けない。だからこそ観察から想像を働かせ、「~ということは、もしかして~ですか?」と尋ねる。来店者がもらした言葉に、上乗せして質問を加えるのだ。相手に興味を持っていることを感じとってもらうことが、話したいという気持ちにつながっていく。
佐藤氏は、「お客さまの言葉へのリアクションが大事。そこでスタッフの腕が問われます。お客さまの言葉に上乗せして投げかけること。ポイントは共感とお褒めすることです」と続ける。共感がない質問は顧客にとって“尋問”されているような感覚を抱かせてしまう。また、佐藤氏は、聞いたことは調べ、次回、同じ人が来店した場合のために知識を蓄えるようにも努めているという。「次回来店時に覚えられていなかったら、自分だったらガッカリすると思うんです。逆に、自分の興味あることに他人も興味を持っくれたら嬉しいですよね」。
佐藤氏が目指す接客は、「帰ったあとに喜んでいただける接客」だ。「自分ではふだん、選ばないような服を買う“冒険”をしたときは、実際に着るのにも勇気がいります。その上で、友人など周囲の人から褒めてもらえたりすると、誰だって嬉しいもの。それがお買い上げいただいた方の満足度につながると思います」。
顧客に“冒険”をしてもらう上で大切なのは、デメリットも伝えることだ。なかなか積極的には話しづらいことでもあり、「買ってもらえないのでは」という不安もよぎるが、「それでもお話ししたほうがいい」と佐藤氏は語る。
「例えば、持っているお洋服と合わせるのが難しいというケースもあるかもしれません。それを伝えずに、お買い上げいただけたとしても …