レンタル・シェア文化を浸透させるためのブランディング (後編)
必要なときに必要なだけ利用できる経済性や合理性が支持され、広がりを見せているレンタル・シェアリングサービス。車からファッション、スペース、スキルまでさまざまなカテゴリーでサービスが生まれている。ただ、なんとなく存在は知っているものの、一歩を踏み出すには至っていない生活者が多いのも事実。成長過程のサービスの最新プロモーションを取材した。
業界別販売促進
2015年は北陸新幹線の開業や、成田空港のLCC専用ターミナルオープンなどの話題で盛り上がりを見せた交通サービス業界。サービス利用におけるIT活用も進み、利用者にとっての選択肢や利便性も高まっている。そのような中で、より多くの人に自社のサービスを知ってもらい、利用してもらうための取り組みを取材した。
海外にも宿泊なしで行ける「弾丸旅行」
●Peach Aviation/Peachを使った宿泊なしの海外・国内旅行を「弾丸旅行」として提案している。
長距離の移動サービスがより短時間で、アクセスもよく、手頃な価格で利用できるようになり、身近な存在になってきている。一方で、交通サービス間での競争も激しくなっている。選ばれるサービスになるためにはどうすればいいのか。今回は、海外旅行の概念を変えたLCC、乗車体験の価値を高めることで乗りたいバスを目指す高速バス、アプリの活用で利便性を追求するタクシー、魅力ある目的地の提案で移動需要を生み出した鉄道を取材した。
徹底したコストマネジメントによってフライトの低運賃化を実現し、飛行機を“普段使い”に近づけたLCC(ローコストキャリア)。中でも勢いのあるのが、2012年3月に日本初のLCCとして就航したPeach Aviationだ。関西国際空港を拠点に急成長を遂げ、2年1カ月で単年度黒字を達成。今年2月時点で国内14、国際10路線を運航する。昨年8月には、累計旅客数1000万人を突破した。
Peachの成長を支えるのは、これまで飛行機を利用していなかった20~30代の女性だ。現在、利用者の半数以上を女性が占める。同社も若い女性をターゲットとした差異化戦略を採ってきた。トレードマークであるピンク色の機体は、運賃が格安であるだけでなく、“おしゃれな航空会社”というイメージ醸成を狙ったもの。ウェブサイトでは女性を意識したデザインを徹底し、「女子旅」をテーマとしたコンテンツを多数掲載している。
プロモーションでは、単に低運賃を訴求するだけでなく、「バスや電車に乗るような感覚で、気軽に遠出ができる」というLCCならではの旅を提案している。中でも注力するのが、宿泊なしの海外旅行「弾丸スペシャル」である。現在、関西―ソウル線と羽田―台北線、2月5日からは新規開設の羽田―ソウル線でも弾丸スペシャルを期間限定で販売。例えば羽田―ソウル往復の場合、通常は約1万3000円~だが、弾丸スペシャルなら9000円で利用できる。
弾丸スペシャルを始めたのは、「12年5月の関西―ソウル就航直後、女性の日帰り利用について耳にしたことがきっかけ」と話すのは、Peach Aviationコーポレートコミュニケーション部の中田理世氏。割安な弾丸旅行を商品化することで、新規顧客を開拓するとともに、「次はゆっくり訪れたい」というリピーターを獲得する狙いがあったという。「弾丸旅行で海外へ」というインパクトある提案は、メディアで多く取り上げられて注目を集めた。この弾丸スペシャルは利用者にも好評で、多い時で対象便の予約の1割を占めることもあったという。弾丸旅行の商品化により、“気軽な海外旅行”の需要創出につながったと言える。
飛行機のデザインを施した特急電車
●Peach Aviation/Peach機と同じデザインの特急ラピート(南海電鉄)を2014年9月から1年間運転。写真は、ラピート史上初、和歌山港線内への運行イベントの様子。Peachの客室乗務員が乗車し、ノベルティグッズの配布やオリジナルグッズの販売を行った。
記念乗車券とオリジナルマグカップ
徹底したコストマネジメント意識はプロモーションにおいても例外ではなく、「費用をかけずに宣伝効果を高める」ことが同社の方針である。そのため、「メディアに面白いと思ってもらうことで、メディア露出につながる仕掛けを意識している」と同部部長の百目木直人氏は話す。前出の弾丸旅行は、メディア露出による話題化に最も成功した施策でもある。
タイアップ企業とのユニークな企画も積極的に行っている。14年9月からの1年間は、関西空港と大阪・難波駅を結ぶ南海電鉄の特急ラピート1編成をPeach機の特別デザインに仕立て、「Peach×ラピート ハッピーライナー」として走らせた。Peachの客室乗務員が駅で乗客にカップケーキをプレゼントするバレンタイン企画や、ハッピーライナーが通常は乗り入れない和歌山港駅まで運行するイベントなどを実施。また、北海道のスノーリゾートである「星野リゾート トマム」とタイアップし、関西空港からトマムへの日帰りスペシャルオプションを期間限定で提供する企画も実施した。
LCCの登場で、新たな航空需要が確実に生まれているという。同社によると、…