「立派なサイトを作ったのに売れない」。こうしたケースを約3000件以上見続け、売上18倍、資料請求120倍といった実績を上げてきたウェブコンサルティング会社ミスターフュージョンの石嶋氏。顧客の話を聞き、最も効率的に売り上げる手段を見極めている。そのため、ウェブコンサルであるにもかかわらず、時には「サイトは必要ない」と判断することも。「大事なのはサイトを作ることではなく、『商売の道理』に立ち返ること」と言いきる石嶋氏が、「ウェブサイトで売り伸ばす」ためのポイントを指南する。
ミスターフュージョン 代表取締役 石嶋洋平氏(いしじま・ようへい)
2003年に日本大学文理学部卒業。広告会社勤務を経て、2009年にミスターフュージョンを設立。ウェブマーケティングコンサルタントとして、キャンペーン立案やウェブプロデュースを手がける。またSEMコンサルタントとしても評価され、2012年6-9月度Google「Excellent Performer Award」最優秀賞、2012年下半期Yahoo!JAPAN プロモーション広告「新規代理店賞 第1位」を受賞。プロセスマネジメント大学の講師やウェブマーケティング関連のセミナーの講演、ABテスト検証ツールの開発も行う。『ホームページで売上があがる会社、あがらない会社、何が違うか』(あさ出版)を2015年8月18日発売予定。
─ウェブサイトを作ったものの、売り伸ばせていない。そんな企業は、まず何から始めればいいのでしょうか。
まず整理整頓から始めます。最も効率良く売るために、いらないコンテンツを捨て、必要なコンテンツを加えるということです。
必要なコンテンツ、つまり自社の強みを見極めるために、実施することは2点。
(1)競合を徹底的に調査すること
(2)サイトを利用するお客さまの声を聞くこと
です。
競合分析は、どの企業でも実施しているとは思いますが、私から見れば、ほとんどできていないも同然。例えば、競合のサイトがどのような内容のメールマガジンを、どういうタイミングで送付しているか、把握できていますか?
当社では、売り伸ばしたいサイトの競合は全てベンチマークし、実際に商品を購入します。そして、どのタイミングで商品の配送やメールの配信が行われたのかを観察するのです。1カ月も観察すれば、だいたいのことは把握でき、競合との比較表を作ります。競合を丸裸にすれば、明確にサイトの強みをあぶりだせます。
サイト担当者に「サイトの強みは何ですか?」と質問すると「返品OK」「土日祝日即日出荷対応」「送料無料」などと答えが返ってきます。しかし、たいていの場合、「本当の強み」はその中にはありません。自社の強みを知る最も確実な方法はお客さまの声を聞くこと。お客さまが購入に至った「決め手」をリサーチします。それを分類していくと、競合と差異化できるポイントが見えてきます。
ここまで準備して、ようやくサイトの整理整頓に入ります。まず強みや競合との差異化の要素がサイトのコンテンツに反映されているかどうかを分析し、強みが反映されていないコンテンツは捨てます。
よくあるのは「スタッフの対応が良かった」というお客さまのレビューがたくさんあるのに、サイトにスタッフを紹介するページがない、というケース。それでは強みを生かしたサイトとは言えません。お客さまの声から、自分たちが選ばれている要因を見極め、それを反映したコンテンツをサイトに加える必要があります。
─お客さまの声はどのようにして集めていますか。
お客さまのレビューの分析やアンケートを実施するだけでなく、営業同行しお客さまを訪問して声を聞くこともありますし、店舗のチラシを配ったりしながら、直接お客さまと接する機会を設けることもあります。どの場合も、お客さまに尋ねる内容は「何がきっかけで当サイトを知ったか」「購入を決めた理由は何か」など、鍵となる6項目の質問を設定したフレームワークを活用しています(表参照)。
─売れる決め手を整理整頓した後の次なるステップは?
既存のサイトコンテンツをA、自社の強みを反映したコンテンツをBとして、A/Bテストを実施します。どちらのコンテンツにしたほうが、実際に成果が出るのかを検証するのです。
その結果から、お客さまの声を再度聞き、強みを分析して、それをまたコンテンツに反映してA/Bテストを実施する。この流れを繰り返すことで精度を上げていきます。
例えば、神戸の紳士靴販売業を営むQueen Classicoの通販サイトではお客さまの声の分析から、靴の質感、サイズ感が分からないことが大きなボトルネックであることが見えてきました。そこで、商品の到着後7日間、無償で返品交換に応じるサービスを「試着返品保証」として大きく打ち出し、説明ページを設けました。それだけで、顧客獲得率を伸ばすことができました。
こうしたA/Bテストの結果は、うまくいったことも、いかなかったことも、大切なデータとして蓄積しています。実は当社の社員から、毎月1人500円でA/Bテストの事例を買い取る仕組みをつくっているんです。例えば、Queen Classicoの「カートに入れる」というボタンは元々オレンジ色でしたが、緑、黒などの色に変えてテストしてみたところ、黒にした場合が最も購入率が高いことが分かりました(写真参照)。こうした、ちょっとした表現の差で売上が変わることがあります。こうしたビフォー・アフターの膨大なデータを蓄積しているからこそ、売り逃さないための提案が可能になっています。
売り伸ばせないサイトの特徴
1. 競合を分析しているようで、実際に購入・問い合わせして試すまではできていない
2. 自社の強みを間違って把握している。お客さまが何を決め手に購入・問い合わせしているかつかめていない
3. お客さまの声や現場の営業担当者の声ではなく、経営者の勘に基づきサイトを運営している
─サイトで売上を伸ばせる会社と伸ばせない会社は、何が違うのでしょうか。
売れないウェブサイトの社長は、自分の勘と経験だけで推し進めようとします。一方、売れるウェブサイトの社長は、お客さまの意見や現場のスタッフの改善策に耳を傾け、改善にエネルギーを注ぎます。
最も売る効率を高めるために、私たちが採用するのは、社長や役員の意見ではなく、お客さまと現場の営業担当者の意見だけ。経験値だけで判断するのは危険ですが、お客さまの声を聞けば、高確率で受注する方法が簡単に見つかります。
またサイトを整理整頓するときに、サイト担当者の仕事環境自体も整頓するようにしています。サイト担当者が、売上改善施策に取り組もうとすると、受発注管理だけでなく、トラッキングや顧客データ分析など、山のように仕事が増えます。売り伸ばすために新しく発生した仕事に従事するためには、無駄な時間を省いて時間を捻出しなければなりません。例えば、トラッキング集計を自動化して時間を短縮し、浮いた時間を、サイトの成果向上施策に充てられるようにする、といったことです。
自動化できるところは自動化して、売上を伸ばすために時間を有効に使えるよう、環境を整えることも大切です。
─時には、「サイトはやめた方がいい」というアドバイスもされるそうですね。
はい。よく目にするのが「せっかくサイトを作るのだから」と、なんでも詰め込んでしまい、何屋なのか分からなくなっているケースです。
サイトを見た人が、結局カタログで購入している、と分かれば、サイトよりカタログに投資をしたほうがいい、と判断します。売るための解決方法はサイトだけではありませんから、コールセンターで注文確率を上げるための提案をすることもあります。効率的に売上を伸ばすために適したやり方を見出し、その精度をどんどん上げていき、PDCAを回すことのほうが大切です。
これまで大手企業のホームページを3000サイトほど見てきましたが、PDCAをまともに回すことができていたのはわずか1~2社でした。ほとんどの企業がC(検証)とA(改善)ができておらず、きちんとした仮説を立てていませんでした。「ダメだったので、とりあえず変えた」というやり方をしていたら、結果が出ないという悪循環に陥ってしまいます。
─効率良くサイトで商品を売る方法をどのように見つけていけばいいでしょうか。
「何を売るか」「何をやめるか」「何を選択するか」を導き出すことです。例えば、靴を購入してもらうのであれば、アイテムの種類から探す、ブランド名から探す、サイズから探す、新着商品から探す、色から探すなど、同じ物を買うのでも、さまざまな選ばせ方があります。それを全部メニューに載せてしまうと、お客さまは選択肢が多すぎて商品を探せなくなります。
先のQueen Classicoの場合、アクセス解析の結果から、新着商品を探した場合、ブランドから探した場合が最も購入に至る確率が高いことが分かりました。
どれを載せた方がいいのか、を最も効率良く絞り込むのが私たちの得意としているところです。
例えば、肉屋の通販サイトに「肉は売らないでください」と言うこともあります。もちろん分析にもとづいた提案です。米沢牛と黒毛和牛の通販をしている米沢牛黄木のサイトは、売上の51%がギフト券だったため、肉そのものよりもギフト券を売るほうが、サイトの売上が上がると判断したのです。
一度ギフト券を購入したお客さまに、もう一度「ギフト券はいかがですか?」とメールマガジンを配信しても、購買にはつながりませんから、今度は、「プレゼントしたお肉を自分でも試してみませんか?」と提案する内容のメールマガジンも実施したところ、同サイトのメールマガジンからの売上は400%UP、サイト内バナーからの売上は18.6倍に伸びました。
こうした他社の成果を見て、競合が真似をしようとしても、同じように成果を上げることはできないものです。なぜなら、自社のお客さまの声を聞き、そこから分析した「自社の強み」「購入の決め手」を見極め、サイトのコンテンツを選択し、成果が上がったからです。
またPDCAを繰り返すことで、より効率の良いコンテンツを追求していくことも大切です。
例えば、住宅メーカーの内藤ホームは、お客さまの声を分析した結果、「3営業以内にプランを2つ持ってきてくれた」ことに満足していることが分かりました。そこで問い合わせボタンに「お悩み・ご要望など3営業日以内に2つのプランをご提案」という言葉を入れました。たったそれだけのことで、大きな成果を上げています。
そして、サイトだけでなく最終的に会社の売上全体が上がればいいという視点も重要ではないでしょうか。せっかく何千万円もかけてリスティング広告を打っているのに、レジ周りや名刺に「ネットやっています」の一言の記載もないというケースもあります。
例えば、アウトドアショップ好日山荘では、サイトでの購入を高めるため、リアル店舗で、レジ周りにSNSを告知するポスターを貼ったり、購入者にチラシを封入したり、メールマガジンからリアル店舗への来店を促す提案をしました。こうすることで、サイトだけでなく、全体の売上を上げていくための改善につながっています。私たちはウェブサイトも店舗も同じ店舗として捉えています。重要なことは、商売の道理に立ち返ることではないでしょうか。
いくら恰好いいサイトをつくっても、売れなければ意味がありません。売り上げが上がる、営業効率を高めるための「売れるサイト」へと改善する提案を今後も強化していきたいと考えています。
石嶋社長のアドバイス(1)
お客さまが問いあわせしたくなるコンテンツを置いていますか?
車検のコバックでは、ホームページのトップ画面の一番上にバナーを付けていましたが、会社概要や板金修理のサービスについての内容でした。しかしコバックのサービスを利用したい顧客が求めているのは、車検の見積もり、予約、急ぎの問い合わせがしたい、ということ。バナーを変更することで、平均顧客獲得件数が63件から130件に上がりました。
石嶋社長のアドバイス(2)
そもそもサイトに載せる商品を変えたほうがいいかもしれません
肉の通販サイトのリニューアルでアクセス解析をしたところ、サイトの売上の51%がギフト券の売上だと判明。ギフト券をメインに売り伸ばすサイトにしました。メールマガジンを使い、ギフト券購入者に、お手頃価格の焼肉やハンバーグのお試しセットを提案して購買に結びつけ、サイト内バナーからの売上は18.6倍にまで伸びました。
お問い合せ
株式会社ミスターフュージョン https://MrFusion.co.jp
〒105-0013 東京都港区浜松町1-9-10 DaiwaA浜松町ビル9F
TEL.03-5405-4343