企業と消費者との接点は、ますます多様化が進んでいる。テレビのように数多くの人に広くリーチできるメディアから、ウェブのように適切な人を選んで届けられるものまでさまざまだ。その中でいま、イベント施策を活用する意義とは一体何だろうか。電通イベント&スペース・デザイン局コミュニケーション・デザイン・スーパーバイザーの藤田卓也氏に聞いた。
「祝!九州縦断ウェーブ」。九州新幹線全線開業を祝うため、イベント用試運転新幹線を運行。沿線には1万人を超える人々が集まり、新幹線に向かって手を振ったり、飛び跳ねたりと思い思いのパフォーマンスを披露。その模様を収めたテレビCMは、日本全国に話題を広めた。
いま改めてイベントが
注目されている理由
「人々へ情報を届けることがますます難しくなっている」と、さまざまな場面でよく言われます。確かに一方的な情報発信では受け取られづらくなりました。ソーシャルメディアの普及によって消費者自身が、自ら体験したこと、面白いと感じたことを積極的に発信するようになったことも、より実感されるようになりました。ソーシャルメディア上では、消費者は周囲の人々が発信する情報には耳を傾けています。内容についても、親近感を持つ発信者からのものであれば、懐疑心を持たずに聞き入れている節があります。
こうした状況下は、私はイベントにとって強い追い風になっていると思います。イベントは文字通り、心に残る現実の「出来事」や「事件」。コミュニケーションを広めていく火付け役であるからです。「これ見た?」と言ってもらえる出来事を生み出す。そうすれば、体験者からその周りにも届いていく。それがコミュニケーションの火付け役ということです。
テレビCMや映像コンテンツとの連携も進んできました。イベントの模様をドキュメンタリー的にまとめた映像を用意して、テレビCMにしたりインターネットで配信したりする手法です。ソーシャルメディアより、もっと積極的に、メッセージに触れる人を増やせるのです。
その場にいなくてもイベントを体験してもらったような効果を期待することができます。海外の企業などは、広告キャンペーンで、こうした手法を取ることが多くなってきました。フィクションではなく、実際にインパクトのある事実を作り上げてしまい、その様子をドキュメンタリーに収めて、テレビCMで流すのです。
参加者の中で
「伝説」化を目指す
日本でも同様のケースがあります。その最たるものは、九州新幹線開業時に線路沿いに人々が集まった「祝!九州縦断ウエーブ」ではないでしょうか。参加された九州の方々は、かけがえのない体験をされたでしょうし、その様子をCMで見た私たちも、同じような感動を得ることができました。残念ながら、東日本大震災でCMはすぐ流されなくなってしまいましたが、むしろ視聴者側から「元気が出るので流してほしい」という声が寄せられたと聞きます。インターネット上でも繰り返し視聴されていました。
鈴鹿サーキットで、アイルトン・セナの「ドライビング」を光と音でよみがえらせた「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」も同様のケースと言えます。こちらは、一般公開はされませんでしたが、本当にコースに専用の機材を張り巡らせ、セナの走りを復活させました。その様子を収めた動画はやはり、膨大な再生回数を記録しました。
もちろんここまで大掛かりなイベントはなかなか開けませんが、重要なのは、届けたい相手に対して「何を起こしたか」ということです。規模は小さくても、参加した人たちの中で「伝説」化すればいいのです。ターゲット層が「これが見たかった!」「こんな経験がしたかった!」と言うものを実現する。そうすれば必ず、周囲の人に伝えたくなります。それが新しいファンの獲得につながるのです。
イベントは広告手法の中でもかなり古い部類になります。江戸時代の「ガマの油売り」などもそうでしょう。客寄せの大道芸を見た人が長屋の裏で話題にする …