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販促テクノロジー

IoT(インターネット・オブ・シングス)が販促のあり方を変える

「販促テクノロジー」という言葉からどんなことを想像するだろうか。近未来的でビジネスを効率化してくれるもの、あるいは専門知識が必要でちょっととっつきにくいもの…。しかし、私たちの理解が追いつくのを待たず、日々技術の進化は続き、販促のあり方も変えようとしている。まずは最新のトピックスである「インターネット・オブ・シングス」について考えてみよう。

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アマゾンが発表した「ダッシュ・ボタン」。写真ではP&Gの洗剤「タイド」のロゴがついているが、機能上は、対応商品であれば、他社の商品を注文することもできる。現在は米国のアマゾンの有料会員のみの配布だが、その費用を払ってでも自社商品のための「ダッシュ・ボタン」を配布したいメーカーは少なくないはずだ。

リアル「1クリック」ボタンが登場

毎日新たなテクノロジーがニュース記事などを賑わしているが、いま、最もホットな言葉の一つは「インターネット・オブ・シングス(IoT)」だろう。製品をインターネットにつなげ、モノとヒトとのコミュニケーションだけでなく、種類の異なるモノとモノとを連携させて利便性を高めるという考え方だ。

最近でIoTで話題となったのは、米アマゾンが発表した「ダッシュ・ボタン」だ。アマゾンといえばEコマースの世界最大手。Eコマースでは、商品ページから購入ページへ飛び、個数や配達先、支払手段などを選択して注文する…というのが一般的だが、同社では、1クリックで購入ができる、文字どおりの「1-Clickで今すぐ買う」ボタンが象徴的だ。活用した経験のある人も多いだろう。

「ダッシュ・ボタン」は、ウェブサイトやスマートフォンアプリで使っている「1-Click」ボタンを実体化させたような製品。大きさはミントタブレットのケースほどで、筐体外部にはボタンが1つ。壁などに張りつくようになっており、家庭内のさまざまな場所に取り付けられる。内部には通信機器が搭載されており、Wi-Fiを介し、自分のスマートフォンアプリと連携させて使う。

利用者があらかじめ、買いたい商品を「ダッシュ・ボタン」に登録しておくと、ボタンを押すだけで、その商品が注文できるようになる。例えば、キッチンに「ダッシュ・ボタン」を取り付け、紙ナプキンを設定。ナプキンがなくなりそうだと思えばボタンをひと押しで注文。洗濯機に設置して洗剤が尽きかけたらひと押しして注文、といった使い方をする。指定できる商品は4月1日現在で257品目に上る。事前の設定で1プッシュごとの注文個数やサイズなどを決めておくことも可能だ。

注文内容はスマホアプリから確認できる。キャンセルもアプリから。一度押すと商品が届くまでボタンは無反応になる。

アマゾンは3月31日の発表から、米国内の有料会員向けに提供を始めた。「ダッシュ・ボタン」自体は無料で、有料会員1人につき3個まで配布する。

例えば、ボックスティッシュがなくなって困った、会社帰りに買って帰るつもりだったが、なぜかうっかり忘れてしまった…そんな経験のある人も少なくないのではないか。つまり、欲しい気持ち、買いたい気持ちが最高潮となる場面のひとつは、その商品が“なくなったとき”だ。しばらく時間が経つと、その需要は次第に意識下に沈んでいく。しかしもし、この「ダッシュ・ボタン」が各家庭に普及したら─。日用品で買うことが決まっているものは実店舗どころか、オンラインストアすら介さず、買えるようになる。普段使っている商品を繰り返し買いやすくなり、別の商品を試してみようか、という気も起きづらくなるかもしれない。

そうした「ダッシュ・ボタン」だが、実際は、アマゾンが抱いている構想の一部でしかない。その構想とは、「ダッシュ補充サービス(DRS=Dash Replenishment Service)」と名付けられたプロジェクト。

製品から直に関連商品を購入できるようにする計画で、すでにフィルターの取り替え時期が来たら自動で注文する浄水器(ブリタ)や、トナーがなくなったら自動で配達を頼めるプリンター(ブラザー)などが具体化されつつある。

スマホと連携する手軽なIoTも

日本でも博報堂グループのデジタル総合広告会社スパイスボックスが5月、IoTの企画専門会社を立ち上げた。その社長を務める神谷憲司氏はIoTのあり方について、「商品はたったひとつの体験を提供するものから、個々人の嗜好に合った多様な体験を提供するものになる」と話す。

神谷氏は、「ダッシュ・ボタン」や「ダッシュ補充サービス」のような大掛かりなプロジェクトでなくとも、IoTは実現できるという。同氏が注目する領域のひとつが「スマートフォンIoT」だ。スマホにアタッチメントを着け、通信機能や演算機能、センサー機能を利用する。例えば、筑波大学主催のプロジェクト内で開発された「コロコロプラグ」。スマートフォンのイヤホンジャックに車輪型の装置を挿し、転がして長さを測る。テーブルの上を転がして大きさを測り、見合ったサイズの雑貨を検索して注文したり、計測した小包の大きさを基に配達を注文、といった活用法を想定している。

「アプリをインストールするように、必要な機能をアタッチメントとして追加するスマホIoTは、普及する可能性の高い領域の一つだ」(同)。スマホを活用すれば比較的手軽にIoTが実現できるのだ。

マーケティングの光景はどう変わる?

消費者が商品を買う手段として、実店舗とオンラインの壁は次第になくなってきてはいるものの、いまだ境はある。しかしIoTが普及すれば、オンライン・オフラインを問わないマーケティング、プロモーションが必要となりそうだ。

キリンのデジタルマーケティング部・デジタルマーケティング担当主査の上代晃久氏は、「日常にあるすべてのものがデバイスになっている未来のコミュニケーションを描いたときに、今、キリンでやっておくべきチャレンジは何か?ということを考えている。当社で言えば、IoTが満ち溢れる世界で『飲みもの』のマーケティング活動はどう変わるか、ということ」と話す。

「IoT活用の姿」を形にするには、もちろんテクノロジーの理解が不可欠となる。特にセンサー活用した技術や、クラウド・コンピューティングの開発と運用にはどのくらいの資源が必要となるか…コストが適正かどうかの判断…協力はどこに仰ぐべきか…など、さまざまな課題はある。

「しかし私たちが忘れてはならないのは、IoTは単なるプラットフォームであり『装置』だということ。ただ、その上で、お客さまの生活の流れにそって『キリンの飲みものが飲みたいな』と思ってもらえるコミュニケーションを考えるのは、今までと全く異なる世界を描ける能力が必要」。例えば、家庭の中でキリンの飲みものがある環境を考えると、冷蔵庫や台所、コップ。こうしたものが連携しはじめたらどうなるか。一見、飲みものと関係なさそうな、空気清浄機や体温計、体重計はどうか。(飲みものを楽しみながら)電子ブックを読むこともあるかもしれない。「お客さまのライフスタイルにおいて、何が飲む行動のきっかけとなるのか?飲んでいるとき、飲んだ後の新しい気持ちをいかに創りだすか?そういった視点でIoTの活用にチャレンジしていきたいと考えている」(同)。

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キリンのデジタルマーケティング部の上代晃久氏が「IoT」の例として挙げた、マイクロソフトの「ホロレンズ」。写真内でブロック状に見えるのは海外ゲーム「マインクラフト」のブロックで、テーブルなど現実世界に3次元映像を重ねて表示している。自室に合わせて家具や家電を選び、そのまま注文するのにも使えそうだ。応用の可能性は大きい。

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