消費者の接点が増える中、それぞれの接点でどのような体験を提供すれば、売り上げに貢献するのか。そして消費者の反応を生かしながら次の手を打つか、を課題としている企業は少なくない。2月19日、三越伊勢丹ホールディングスの柳正明氏、アクサ生命保険の松田貴夫氏、アドビ システムズの岩本崇氏が登壇し、各社の顧客体験戦略やツールについての講演が行われた。
三越、伊勢丹それぞれの歴史を振り返りながら百貨店の顧客体験を説く三越伊勢丹ホールディングス執行役員営業政策部長の柳正明氏。
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「理屈に合わないからこそ、信じる」─2世紀にはすでにこんな言葉があったという。合理的に考えれば、同じ商品ならどこで買っても、誰から買っても、その商品の価値は変わらないはずだ。けれど私たちは、「ここで買いたい、この人から買うからこそほしい」と感じることも多い。売り手側の立場に戻れば、そう思ってもらえることこそ本望だ。
「小売業は本来、『顧客体験』を売るビジネスだ」と三越伊勢丹ホールディングスの執行役員営業政策部長の柳正明氏は語る。「小売業は、商品に付加価値を上乗せして売る。その付加価値こそ、『顧客体験』にほかならない」と言葉をつぐ柳氏は入社以来28年間、紳士服の現場で顧客と接してきた。2012年からは「実業への貢献が評価指標」と標榜し、スタッフらと直接的に利益向上を目指す働き方を推進している。
「店で待っていれば顧客が来るという幻想から早く覚め、意識改革をしなければ、30年後に百貨店という存在はない」と舌鋒鋭い柳氏。現在挑むのは、店外での顧客接点の構築だ。特に、地方都市に単身赴任中の会社員をターゲットとしたバトラー(執事)サービスには手応えを感じている。「単身赴任の会社員は、海外出張に出たり、いっとき東京に戻ったりと慌ただしい。そこで我々がソーシャルメディアでご注文を受け、お届けする。登録者はまだ500人ほどで、年商2億円ながら拡大発展の兆しはある」。
「保険業は、長い30年の中のたった1日の顧客体験が、30年分の成果となるか、台無しにするかを決める業界」と話すのはアクサ生命保険の松田貴夫氏。「お客さまが求めているのは、幸せに一生を過ごすこと。加入時・保険金給付時が大きな顧客体験だったが、今後は、大きく変わると思う」と言う。
例えば疾病なら、選んだ病院や医師、治療でその後が大きく変わってしまう。そこで保険金を支払うだけでなく、「過去の事例では、罹患後30%が要介護状態になります。それを避ける治療をしている病院があり、必要な金額は─こうしたご提案をする時代になる。ただお金を渡すだけではお客さまは幸せになれない。最適な使い途の提案も受けてこそ、満足度の向上につながるはずだ」。
同じ内容でも、デジタルにするだけで商品の魅力が伝わりやすくなったり、体験の深さが増すことを各社の事例で紹介するのは、アドビ システムズの岩本崇氏だ。「例えばキヤノンが扱うレンズは数多く、紙のカタログには載せきれない。デジタルならすべてのレンズを紹介できるし、撮影例(作例)のバリエーションも増やせる。インタラクティブ機能で商品を魅力的に分かりやすく伝えることも可能だ」。
これまでは、紙幅上、人気の高いレンズを優先せざるを得ず、ほかのレンズを見たいという顧客の要望に応えられなかった。1本あたりに興味を持つ人数は少なくとも、累計すれば無視できない顧客がそこにはいたのだ。アクサ生命保険の取締役専務執行役兼チーフ・マーケティング・オフィサーの松田氏も、「契約約款は、検索できたり、文字を拡大できたりするデジタルの方がお客さまにとって利便性が高いかもしれない」と話す。
「デジタルであれば、各コンテンツに対する顧客の反応が数字で見られる。それを元に改善すれば、顧客体験も向上する。紙と比べて、改修しやすいのもデジタルの利点だ」。
画一的な、ロジックに基づいた顧客像からは本当の要望は引き出せない。積極的に望みを尋ね、商品を超えたリクエストに応えるには、実際の顧客と向き合うのが一番だ。顧客体験の向上で何より重要なのは、消費者の反応を測定し、次の戦略にすばやく生かすことにある。
アドビ システムズ マーケティング本部 デジタルマネージャーの岩本崇氏は各社事例を通じてデジタルの効果的な使用法を紹介。
テクノロジーの発展が変える保険業の顧客体験の展望を述べるアクサ生命保険取締役専務執行役チーフ・マーケティング・オフィサーの松田貴夫氏。
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