2014年10月〜15年1月、日本郵便がLINEに画像を送ると年賀状を自動生成するサービス「ぽすくま 森の年賀状屋さん」を実施。同サービス経由でのハガキ注文は20万枚にのぼった。年賀状の発送数が減る中で、若年層の心を捉えたこの販促アイデアは、どのように生まれたのか。企画・制作を担当したCONNECTITに聞いた。
LINE上でユーザーが送付した画像から、年賀状をデザインする「ぽすくま 森の年賀状屋さん」。年賀状デザインはわずか数秒で生成されたものだが、そのままハガキで送付できる完成度。
画像とフレームの「組み合わせ」で、年賀状に一枚一枚ストーリーが生まれる。生成されたデザインはSNSへの投稿も相次いだ。写真だけでなく、動画を送信すると、動画が見られるQRコードが年賀状に入れられた。
年賀状に触れてもらう機会を高める
日本郵便が発行した2015年用の年賀ハガキは33億枚。5年前の2010年用は38億9千枚であり、年賀ハガキの利用数は年々減っている状況だ。そんな中、ある無料サービスを使い、「年賀状づくり」に夢中になった人たちが、年賀状デザインを次々にSNSで投稿する、という現象が起きた。日本郵便のLINE公式アカウントの無料サービス「ぽすくま 森の年賀状屋さん」である。
これは、LINE上で日本郵便のキャラクター「ぽすくま」と「友だち」になり、ぽすくまに画像を送ると、おすすめの年賀状を瞬時に自動生成してくれる、というもの。画像に写る人物の数や顔の位置などを認識し、それに合うテンプレートやスタンプと組み合わせ、画像を加工。できあがる年賀状はマンガ風、ポップアート風など1000種類以上にのぼった。
ユーザーからは、ぽすくまが作る絶妙な1枚に、「神がかったセンスに爆笑」「あまりにもナイスなデザインで保存してしまった」「ちゃんと画像認識してつくっている」などと好意的な意見が寄せられ、何度も画像を送ってお気に入りの一枚を探すケースも見られた。ぽすくまと友だちになった人は600万人。生成された年賀状デザインはLINE経由で印刷注文でき、20万枚のハガキ出荷を実現している。
企画・制作を担ったのは、リアルとデジタルのコミュニケーションを連動させたサービスの提供を専門とする制作会社のCONNECTIT。飯野法志社長は同サービスの企画に至った背景をこう話す。
「年賀状が届かないと、自ら書いて送ろうという気持ちがわき起こりにくいもの。特に若年層は年賀状に触れる機会が減っています。年賀状市場の縮小を食い止めるというマーケティング課題を解決するため、年賀状への接触機会を増やすことに焦点を置き、若年層が頻繁に利用するLINEをメディアとして選択しました」。
本サービスで活用したのは、企業とユーザーが1to1で双方向にコミュニケーションできるLINE ビジネスコネクト。ユーザーは、ぽすくまとトークしながら、年賀状を生成していく。「わぁ、いい写真だね」「もし気に入ってくれたら注文できるよ」「動画年賀状もできるんだよ」などと、ぽすくまが話しかけてくるところも人気の要因だった。
ぽすくまとの会話が楽しめるのも、人気の一つ。印刷注文もさりげなく案内できる。サービス終了時には、ぽすくまとの別れを惜しむ投稿が続いた。
1秒単位の攻防 何度も試したくなるサービスに
ユーザーが、ぽすくまに画像を送ってから、年賀状が作成されるまでの時間は、わずか3〜5秒だ。その間に実際に送付できるレベルのデザインができあがる驚き、そして同じ画像を送っても毎回違うデザインが出てくる面白さ─。何回も年賀状づくりを試したくなる仕掛けがユーザーを惹きつけた。
「年賀状が生成されるまで10秒待たされたら、ユーザーはもう1回試したいとは思わない。5秒以内に表示ができるよう仕組みを整えました」と飯野社長は振り返る。制作スタッフには、ユーザーが快適にサービスを使えるようプログラムを組むテクニカルディレクターや、サーバーの安定運用を専任で担当するエンジニアも配置。通常のキャンペーンで使用する約20倍となる200台のサーバーを用意し、400万近いアクセスの集中に対応できる体制を組んだ。
「ぽすくまが数秒で作ったデザインと同様のものを、年賀状のデザインキットを使って作ろうとすると、実は手間がかかります」。そう指摘するのは、クリエイティブのディレクションを担った大西貴之氏。画像の色を調整したり、加工したり、顔認識をしたりと、同サービスの裏側では、実は高度な画像処理技術が駆使されている。
「年賀状を送らない理由を聞いたある調査では、送る習慣がないだけでなく、作成するのが面倒くさいという回答が一定数ありました。画像の送付のみで本格的な年賀状ができてしまう仕組みで、作成の敷居を下げ、年賀状づくりを楽しく体験してもらうことを目指しました」と大西氏。デザインは、クスッと笑えて、人に話したくなるようなものを用意。ユーザーは画像を何度も送付し、年賀状デザインを見比べるうち、ぽすくまから「印刷注文もできるよ」と促され、購入を検討し始めたのだ。
今回は年賀状に触れる機会を促す施策だったが、LINEビジネスコネクトを活用すれば、さまざまな角度から、商品やサービスの体験を促せると、大西氏は見ている。「例えば、顔写真や動画を送ってもらい、好みのメガネを試してもらう、肌の色や口角を認識して美容品を勧める、位置情報を使って店舗に近づいたときに情報を送るなど、幅広い施策が試せるのでは」と大西氏。CONNECTITでは、同社が持つ技術力、クリエイティブ力を生かし、体験を促す販促施策の提案を今後も行っていきたい考えだ。
「ぽすくま 森の年賀状屋さん」の企画・制作を担当したCONNECTITの 代表取締役社長 飯野法志氏(左)とインタラクティブディレクター大西貴之氏(右)。
「ぽすくま 森の年賀状屋さん」の流れ
「ぽすくま」とLINEで友だちになり、画像を送ると、年賀状のデザインが自動生成される。気に入った年賀状デザインはスマホで注文。ハガキに印刷、発送できた。
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