高度に複雑な問題を、忙しい経営者に提言し、実行を支援するコンサルタント業界。その「スライド作成の技術」は、より早く、正確に、少ない労力で提案を推進するべく他業界に比べ高いレベルに発達している、とヘイ コンサルティング グループの山口周氏は言う。電通を経てコンサルティングファームで活躍する同氏に、シンプルなスライドに磨き上げるためのコツを聞いた。
文字数を減らし誤解なく伝える
企画書は、人を動かすもの。人を動かすには、共感、納得が必要です。優れた提案も伝わらなければ成果はゼロ。スライド作成の技術は、人を動かす武器になります。世の中を動かすスライドを作った偉人に、ナイチンゲールがいるのを知っていますか。クリミア戦争の死者は病死が多いという統計をスライドにし、看護婦養成の必要性を解くため国会議員を回り、ついには陸軍をも動かしました。
人を動かすにはプレゼンも重要です。しかし直接会える人は限られますからインパクトは小さい。一方、スライドは多くの人を動かせます。
プレゼンせずに企画書のみで提案する際は、文字数を極限まで減らします。情報量が多いほど誤解が生じるからです。例えば伝言ゲームで「Aさんが好き」と伝えるチームと、「Aさんが好きな理由を20個」伝えるチームの正解率の差は歴然でしょう。これと同じです。私の場合、1スライドの要素は、1メッセージ(30文字以内)と、根拠となる図の大きく二つ。文字の大きさは12ポイント以上にし、メッセージが長ければスライドを分け、手書きしてからパワーポイントを触ります。手書きは手間がかかるため、自ずと文字や線が減り、結果シンプルなものが出来上がるのです。本当に伝えたいメッセージは何かを絞るため、付箋に書き出し並べることもあります。
企画を構成する三要素
ビジネスにおける企画はWhat、Why、Howの三つで構成されます。What(何をしましょう)、Why(なぜいいのか)、How(具体的にどうしたらいいのか)。プロモーション企画では、Why→What→Howの順が多いかもしれません。結論より前に背景を説明することで、合意が得にくい新しい提案も受け入れやすくなります。リストラのような重たい提案はこの順が有効です。
Whyにあたる提案の根拠は、事実(Fact)とInsight(洞察)の二つを組み合わせると伝わりやすい。例えば「市場規模が小さくなり、競合が特殊な商品を出したことで、当社の定番商品の売れ行きが落ちている」これは事実です。「これらのデータから、当社も尖った商品を投入しないと厳しい状況にあることが読み取れる」。これは洞察です。調査結果をいくつも羅列すると、相手の理解が追いつきませんが、事実から何が読み取れるのかを整理し、その上で、どんなActionをしましょうとスライドを進めていくと、相手の理解のスピードに合って分かりやすくなります。
90年代、私が広告会社に所属していた頃、大型コンペで競合に連戦連敗する事態が発生していました。知人を通じて競合の提案書を入手し比較してみると…