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宣伝会議60周年特別企画

広告界の新しいあり方を議論した2日間――アドタイ・デイズレポート

アドタイ・デイズ

「広告界の未来を構想する」をテーマにしたイベント「AdverTimes DAYS(アドタイ・デイズ)2014」(主催・宣伝会議)が4月15日と16日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開かれ、2日間で9802人が来場した。広告主、広告業、メディア、クリエイターなど垣根を超えた議論が行われ34のセミナーを実施。ここではその一部を紹介します。

パネルディスカッション(1)
共創の時代
~顧客の声を生かして商品・サービスを開発・改善するためには〜

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(左)ネスレ日本 コンシュマーコミュニティ開発グループ
ネスカフェアンバサダービジネスユニット 部長
津田 匡保氏

(右)カルビー マーケティング本部 Jagabee事業部 部長
山村 眞氏

お客さまの声は可能な限りダイレクトに聞きとる!

――顧客の声を吸い上げるために取り組んでいらっしゃることは?

山村▶ 「カルビーサポーターズクラブ」という会員制クラブを設け、現在約9000人のお客さまにサポーターになっていただいています。その内容は、新商品の情報をお届けするほかアンケート調査やグループインタビューを行い、お客さまのご意見を直接うかがうこと。時に、リサーチ会社にお願いすることもありますが、大切なのはお客さまとの距離感なので、その際にはなるべく当社社員がモデレーターを務めるようにしています。また、2006年から商品パッケージのお問い合わせ欄に「声をお聞かせください」と印字するようになりました。この表示に切り替えたところ、お客さま相談室に寄せられる声が週3〜400件から7~800件に増加。その多くが前向きなご意見やご提案です。

津田▶ 日本で年間500億杯のコーヒーが飲まれているうちの6割が家庭内、4割が家庭外です。当社は圧倒的に家庭内のシェアが高いため家庭外を強化していきたい背景がありました。そこで、家庭外への普及のために、家庭用に開発された当社の「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」というコーヒーマシンを無料で貸し出しする「ネスカフェ アンバサダー」という仕組みを開発し、会員の方からface to faceでご意見をうかがうようにしています。ネスカフェ アンバサダーの方々からのご意見は我々にとって、サービス向上のために大変ありがたいものです。ただ“ご意見を拝聴する”のではなく、我々もしっかりと考えを伝え、社員と話すような感覚でざっくばらんに意見交換をさせていただくようにしています。その方が本音で話せて結果的に良い物が作れると確信しています。

誰に喜んでもらうかターゲティングの明確化を図る

――顧客の声を聞くために、重視しているポイントは?

山村▶ どのお客さまに喜んでいただくかをフォーカスすることが重要だと思っています。「Jagabee(ジャガビー)」のプロモーションでは、まず「誰に買ってもらいたいか」をできるだけ具体的にイメージし、何歳でどこに住んでどこに勤めているのか、相当真剣に一人の顧客像をつくり上げました。いまで言う「ペルソナの設定」なので実在はしないのですが、「その人の声を聞こう」とするイメージを社内で共有していくことで、外部のクリエイターの方や流通の方へのプレゼンも非常にやりやすくなりました。

津田▶ ネスカフェ アンバサダーのそもそものきっかけは、東日本大震災のときに被災地支援としてバリスタをお届けしたことでした。人の集まる場所にこのマシンがあるとその場がにぎわい、活性化することに気づいたのです。日本にある約600万のオフィスのうち大きな企業には自動販売機が入っていたりしますが、残り9割の20人以下の小さなオフィスの方々は、自分たちで飲み物を買われています。この層にプログラムを訴求したいのですが、数が膨大で1件1件営業して回る訳にはいかない。そこで「ネスカフェ アンバサダー」を募って、その方に協力してもらい、オフィスに導入いただくという手法を取りました。ネスカフェ アンバサダーの方々から使用中の写真やコメントをウェブに投稿していただいたり、メールアンケートにご協力してもらったりしています。無料の製品を送って終わりではなく、継続的に「お客さまの声を吸い上げる仕組み」を構築しています。

――吸い上げた声をどのように生かしているのですか?

山村▶ 一度、ある商品についてお客さまから「以前の味と変わってしまったので、二度と買いません」という厳しいご意見をいただいたことがありました。そのお客さまへはリニューアル前の試作段階の商品と「ご意見をお聞かせください」といった内容の手書きのお手紙を一緒にお送りしたところ、ますますファンになっていただけました。大切なのは、すぐに行動することと、誠意をお伝えすること。お客さま相談室に寄せられた声は、毎週全社員にイントラで配信して確認できるようにしています。

津田▶ 一つの極端な例ですが、あるお客さまが、自ら、「自分のオフィスで毎月何杯のコーヒーが飲まれるか」を計算するエクセル表を作っていらっしゃったことがありました。これを作成するのには時間も手間もかかったと思います。ネスカフェ アンバサダープログラムのためにここまでしていただけたのか、という感激を覚えましたね。そこで、必要なカートリッジ量をウェブで自動計算できる「コーヒーはかる君」というシステムを作ったのです。きっかけは、たった一人のお客さまの声だったのですが、いまや月間2〜3万回はご利用いただくサービスになっています。一人の声であっても、サービスを改善できるヒントはあるのだと改めて気づきました。

顧客の声にすぐ対応できる組織づくりを

――社内での情報共有や組織体制についてお聞かせください。

山村▶ 東京の本社は会長と社長以外はフリーアドレス制で、自分専用のデスクがありません。異なる部署の社員同士の距離感を近くすることで、たとえばお客さま相談室のメンバーから「お客さまからこんなご意見があった」という話を耳にしたとき、近くにいる開発や品質保証の人間に声をかけて5分後にはミーティングができるような環境です。ちなみに、当社はお客さま相談室の業務も、社員で対応しています。

津田▶ お客さまの声にどれだけ早くレスポンスできるかが勝負だと思っています。毎日お客さまの声を何百件とうかがっている中には、これぞというヒントが隠されているときもあります。そのため担当者には、「ピーンと勘が働いたらすぐに報告しなさい」と伝えてあります。先ほど話した例にもあるように、単純に、「意見の数」だけで判断すべきではありませんし、やはり現場の「勘」、「直観」は大切です。それが担当者レベルで対応できる改善案であれば、すぐに実行に移した方が絶対に良いですね。

――最近の取り組みについて教えてください。

山村▶ お客さまとの、ダイレクトな接点づくりに力を入れています。例えば、東京駅をはじめとした全国に7店舗ほどあるカルビーのアンテナショップ「Calbee+(カルビープラス)」の運営、阪急うめだ本店の「GRAND Calbee(グランカルビー)」や阪神梅田本店の「grano-ya(グラノヤ)などの百貨店直営店にもチャレンジを始めました。失敗を恐れず、何でもとりあえずやってみようという風土は確実に根付いています。

津田▶ 最近行っているのがツイッターやフェイスブックなど、ソーシャルメディアのさまざまな動きを一度に見られるサービスの活用です。ツイッターやフェイスブックそれぞれだけでは分析できない、同じ人がSNSによって発言内容や表現をどう変えているかといったことが分かるなど、発見が多く興味深いですね。SNSの取り組みは各社も苦労されているとは思うのですが、時代も技術も進歩してきますので、さまざまなツールを臨機応変に活用しながらお客さまの声を吸い上げていきたいと思っています。


パネルディスカッション(2)
通したい企画、通せない企画

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(左)タカラトミー カード&トイ事業部 トイゲームチーム 主任
武田 誠氏

(右)雪印メグミルク 市乳事業部 飲料グループ プロジェクトリーダー
竹谷 和章氏

社内プレゼンの前にキーマン全員の了解を得る

ロングセラー商品のプロモーション担当者が「企画」をテーマにパネルディスカッションを行った本セミナー。登壇者の一人、タカラトミーの武田 誠氏は、40年以上の歴史があり、1300万台超の販売数を誇るタカラトミー「人生ゲーム」を担当している。2013年に鹿児島県・与論島を舞台にしたイベント「リアル人生ゲーム」を仕掛けた。武田氏は、社内プレゼンの前に、与論島に出向き、町長含め、すべてのキーマンに企画の話をしておき、「企画が通れば実施可能」と了承を得ていたエピソードを披露。「社内プレゼンで何を聞かれても良いよう万全を期すのが企画を通すための秘訣」と話した。

雪印メグミルクの竹谷 和章氏は、昨年発売50周年を迎え、1日平均約50万本出荷する「雪印コーヒー」を担当。若年層をターゲットに商品の擬人化キャラクターを顧客と一緒に生み出す「オレたちのゆきこたんプロジェクト」について解説した。

当初は反対意見も多かったが、「今のまま保守的なプロモーションをしていても、いずれブランドが衰退し、商品も下降線を辿ってしまうことをしっかりと説明した」と竹谷氏。一見奇抜に映る可能性のある企画も、まずその必然性を示し、相手が想像できる内容に置き換えて話をすることが、企画を通すうえでのポイントだと指摘した。ロングセラーブランドの変えてはいけない部分はおさえつつ、新たな企画に挑戦することが、商品が長く愛される秘訣のようだ。


パネルディスカッション(3)
顧客の感動体験はどうつくるか
「おもてなし」提供企業の企画とアイデア

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(左)日本サブウェイ マーケティング商品本部
マーケティング企画室副室長 兼 広報グループ グループリーダー
岩崎 麻佐子氏

(中)あきゅらいず美養品 執行役員 サービス担当
橋端 ルミ氏

(右)物語コーポレーション 管理本部 経営理念推進部総務課 統括マネジャー
廣瀬 教志氏

スタッフのやりがい・満足が「おもてなし」を生む

昨年の流行語となった「おもてなし」は、日本企業にとって重要な経営資源となっている。しかしながら、顧客を感動させるほどの「おもてなし」を日々のマーケティング活動で実践することは難しいのが現状だ。

そこで、顧客を感動させ、成果に結びつく「おもてなし」を実践している企業として物語コーポレーションの廣瀬 教志氏、あきゅらいず美養品の橋端 ルミ氏、日本サブウェイの岩崎 麻佐子氏が登壇。「おもてなし」のあり方について議論が交わされた。

パネルディスカッションでは、各氏が「おもてなし」として取り組んだ事例と成果について紹介した。物語コーポレーションの廣瀬氏は、おもてなしを生むためには従業員満足度が大切と語り、同社の施策を披露。飲食業界の平均離職率が30%と言われる中、同社では、毎年10%前後で推移していると話した。

あきゅらいず美養品の橋端氏は、通販会社の顧客と直接顔を合わすことがないという特徴の中で、どう信頼関係を築いていくか、その事例を話した。社内見学ツアーの実施、スタッフそれぞれの工夫を生かした手紙が、顧客満足だけでなくスタッフのやりがいも生んでいると説明した。

日本サブウェイの岩崎氏は、小学生を対象に全国で開催しているサンドイッチ教室で、商品だけでなく体験を提供していきたいと今後の展望を述べた。また、店舗スタッフ自身が教室の運営に自主的に取り組むことで、色々な学びがスタッフに生まれていると話した。


パネルディスカッション(4)
OtoOはクーポンばらまき?
流通小売りとデジタルメディアの良い関係

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(左)東急ハンズ オムニチャネル推進部 オムニチャネルコマース課
緒方 恵氏

(右)ユナイテッドアローズ 上席執行役員 事業支援本部長
佐川 八洋氏

今後のO2O実践の鍵は社内の意識改革にある

今や、多くの企業がプロモーション活動に取り入れているO2O。しかし、現実にはクーポンを発行するという施策に着地する企業が多い。

そこで、O2Oに先進的に取り組んでいるユナイテッドアローズの佐川八洋氏、東急ハンズの緒方 恵氏が登壇し、今後のO2Oのあるべき姿について話し合われた。

冒頭では、ユナイテッドアローズの佐川氏がオンライン上のクーポン使用について言及。クーポンは値引きに近いため、多用することでブランドのロイヤルティ自体に傷をつける場合があると指摘。

東急ハンズの緒方氏は、O2O施策として、オンラインで注文し店舗で受け取れるサービスについてと、店舗で売れた商品をリアルタイムにサイト上に表示し、購買行動の後押しをしている取り組みを紹介した。

今後の課題について話題が及ぶと、両社社内における問題を指摘した。

売り上げの考え方に課題があると話すのは緒方氏。店舗受け取りサービスでは、EC部門が一生懸命オンラインを運用しても、売り上げは店舗につく。反対に、店舗で接客しても在庫がなくてネットを案内した場合は、店舗の売り上げにならない。スタッフ個人の成果が数字として可視化できる組織体に変わる必要性を説いた。

佐川氏は、ネットでも購入したいという一般的な顧客の心理を店舗スタッフが十分に理解できていないという状況が発生していると言い、店舗スタッフの意識をどう変えていくかが一番の課題と話した。

2日間で9802人が来場! 会場は熱気にあふれた

一部立ち見がでるセミナーもあるなど、多くの人が熱心に講演に耳を傾けた。

協賛企業による多くのブースが出店され、会場を賑わせた。来場者と企業がやり取りを交わす姿も見受けられた。

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