
『ディズニー“おもてなし”の伝え方』
草地 真 著 ぱる出版 刊 1300円+税
なぜディズニーランドの「伝える力」はすごいのか。“おもてなし”を伝えるには何が必要なのか。どうすれば伝える力を持った人材を育てることができるのか。サービス業に従事する人に向け、「本当のホスピタリティ」がある、おもてなしを実現するためのヒントを解説。
作業に忠実になると人が目に入らなくなる
ターミナル駅にあるカフェで朝食をとっていると、テーブルに突っ伏して寝ている女性がいるのに気付きました。相当疲れていたのかコートのすそは床についたまま。明らかに徹夜の仕事明けといった雰囲気でした。そんな中、店内ではスタッフの大きな声が響きます。食器が床に落ちれば全員で「失礼しましたー」と叫ぶ。お見送りの掛け声は「ありがとうございました」ではなく「いってらっしゃいませー」。スタッフの動きは正確で無駄はなく、マニュアル通りの大きな掛け声と対応です。しかし、そこには「おもてなし」や「ホスピタリティ」は感じられませんでした。コートを直してあげることもありません。実はこうした光景は、飲食店ではよくあることです。なぜこうなるかと言うと、顧客を「人」として見ていないから。テーブルに突っ伏した女性も、業務の対象としか見ておらず、スタッフの仕事が単なる「作業」になってしまっているのです。
マニュアル通り、熱心に「サービス」をすればするほど、顧客を「人」として見ることができなくなり、顧客満足や「おもてなし」を伝えることから遠ざかってしまう。これは接客サービス業に特有の落とし穴です。サービスは誰に対しても画一的で効率的な対応を目指すため、マニュアル化が可能ですが、ホスピタリティは「今、目の前にいる相手」と「その状況」の中で、合理的な対応をしていきます。つまり「いいサービス」を極めてマニュアル化し、トレーニングを重ねて完成度を高めていくほど「今、目の前にいるこの人がしてほしいこと」から離れてしまうのです。