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販促キーパーソン85人が明かす今期の戦略

『なぜこの店で買ってしまうのか』の著者が語る、オムニチャネル時代の店舗のあり方

パソコンからタブレット、スマートフォンへ......デジタル機器の急速な台頭によって、消費者の買い物環境および買い物における心理は変化している。小売・流通のオムニチャネル化が進む中で、実店舗はどのように消費者と向き合えばいいのか?世界で180万部を超えたベストセラー『なぜこの店で買ってしまうのか』の著者であるパコ・アンダーヒル氏に聞いた。

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米エンバイロセル CEO パコ・アンダーヒル氏
1979年に「顧客行動分析」という独自のマーケティング手法を開発し、Environmental Analysis&Planning Consultantsを設立。スターバックス、マクドナルド、シティバンクなど、数多くの米国の大手企業に対し、顧客購買行動の調査・分析・コンサルティングを実施。1989年には社名をEnvirosell,Inc.に改称。著書である『なぜこの店で買ってしまうのか:ショッピングの科学』(早川書房)は、世界で180万部を超えるベストセラーに。今年3月には同じく早川書房より廉価版が発売となった。

マーケターは本当に消費者を向いているのか?

──タブレット端末やスマートフォンを利用することで、誰でも、いつでも簡単に商品の情報を得られるようになりました。この変化が消費者の購買行動や心理にどのように影響しますか?

確かに情報を得ることは簡単になりましたが、オンラインとオフラインでは、それぞれ商品の価格が違っていたりしますよね? また、同じ商品でも、上海よりも銀座で買った方が安かったりと、場所によっても変化します。こうしたことなどを総合すると、消費者は今の状況に混乱しているのではないでしょうか。

けれど、マーケティングに従事している人たちは、あまりその問題に注意を払っていないように感じます。消費者が価格の違いに混乱しているのに、それを解消する方向に持っていこうという意識があまり感じられません。これはデジタルの世界(オンラインストア)でも、アナログの世界(リアル店舗)でも同じです。

──では、混乱している消費者の気持ちを購買へと導くために必要なことはなんでしょうか?

一つ目の手段は、サプライチェーンマネジメントの強化です。供給のマネジメント、オペレーションや運営をうまく行うことで、オンライン上の商品と実店舗にある商品との品ぞろえを同じようにし、価格の違いをできるだけなくしていくのが効果的だと思います。

二つ目の手段は、「店舗に来た方がいいなと思わせる」ことです。商品を単品で売らず、組み合わせて売るというのもその一つでしょう。例えば携帯電話なら、本体だけではなく、ケースやストラップ、電池チャージャーも一緒に販売するというように、まとめることで便利さやお得感を出していくのです。単に価格だけでなく、「店舗で買った方が価値のある買い物ができる」という感覚を呼び起こすことが大事だと思います。

価格が安いというのはもちろん大事な要素ですが、誰にでも「安物買いの銭失い」の経験はあるはず。「安さ」だけを強調すると、恐らくリアル店舗ではオンラインストアに勝てません。ですが「価値の大きさ」という観点ならば、十分勝てる要素があると考えます。

──“オンラインと実店舗との品ぞろえに差がないようにしていく”という話がありましたが、現状では小売がオムニチャネル化を進めており、必ずしもその場で買う必要がなくなってきている感もあります。「いつでも買える」という状況の中で、あえて「今ここで買いたい!」という気持ちを盛り上げるために、店舗が行うべきアプローチは?

実店舗だからこそできることというのは色々あると思いますが、店舗での買い物の強みは、商品に直接触れたり匂いをかいだり、物によっては試飲や試食ができるなど、五感に直接訴えるプロモーションが可能なことです。例えば衣服のような商品なら、「実際に触ってみたら、すごく手触りがよかったので欲しくなった」といった気持ちの変化が起こりやすいですよね。つまり、店舗ではもっと五感に訴える、体験を促すようなプロモーションをしていくべきなのです。

また、先ほど“オンラインや実店舗では商品の価格が違う”と話しましたが、なぜ違うのかその根拠を店舗がしっかりと示すことが大切でしょう。つまり「今すぐにここで買うならこの価格です。しかし、家に送るならこの価格になります。後で取りに来るならこの価格です」など、価格がきちんと体系付けられていれば、なぜ価格が違うのかが分かり、混乱をきたすことはなく、納得して購入するようになるのではと思います。

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2月に来日し、クロス・マーケティング主催の、「エンバイロセルメソッドで読み解く、顧客行動から売り場を変えるショッパーインサイト」をテーマとしたセミナーで基調講演を行った。実際に店舗で撮影した顧客行動調査映像を基に、消費者の購買メカニズムについて解説した。

「買った場合」の利益を最大限伝えること

──日本では4月から消費税が5%から8%へと上がるために、増税後の消費の落ち込みが危惧されています。増税後に下がってしまった消費意欲をかきたてるためのヒントをお願いします。

本当に基本的なことですが、商品を売る際には、ただ売るだけではなくて、「この商品はどういうものか」という情報を教えることがとても大切です。ただ商品名を連呼して「買ってください!」と言うだけではなく、「この商品を買うとお客さまにどういった便益があるのか」ということを、もっと分かりやすく伝達する必要があると思います。

例えば白物家電なら、家電ごとの性能差以外にも「この商品なら、こういった仕組みでエネルギーが節約できます」と伝えられるかもしれません。衣服なら、季節性や耐久性を強調することもできるでしょう。テクノロジー商品・サービスなら「これを買えば、あなたは同時に複数の仕事をこなせるようになり、時間が節約できます」など、顧客の生活の質を向上させるような利便性を分かりやすく伝えられたら、購買意欲を喚起することができるのではないでしょうか。そのためのキーワードが、先ほど述べた「体感・体験」を促すことだと思います。

商品の価値は価格だけではありません。もう一度、自分たちが売っている商品の価値を見直して、その価値をどう打ち出せば効果的に伝わるのか、消費者に響くのかを考えて、メッセージを伝える必要があるでしょう。

    デジタル化が進む中で店頭が行うべきこと

    1. 店頭とネットにおける品ぞろえ、価格の違いをなるべくなくす、もしくは理由を明示する

    2. “店頭の方が価値の高い買い物ができる”と感じられる仕組み・仕掛けをつくる

    3. 五感に訴える、体感・体験を促すプロモーション施策を行う

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