イラスト:高田真弓
プリプリの食感のバナメイエビは、実はエビチリに適した食材。正直に申告されると、むしろ客は食べたくなる。
作家、江戸川乱歩の初期の短編に『心理試験』という傑作がある。
物語のあらすじはこうだ。頭の切れる主人公の大学生が、ある日友人から下宿の宿主の老婆が莫大(ばくだい)な財産を屋敷内に隠している話を聞き、一計を案じて老婆を殺して金を奪う。その後、容疑者として、隠し財産の存在を知る主人公と友人が取調べを受ける。その際、判事は2人に「心理試験」を行った。それは、判事が発するさまざまな単語から連想される言葉を瞬時に答えていくもの。その中に事件に関する言葉がいくつか紛れており、反応が遅れたり、言葉に詰まったりすると、「動揺している」と見なされる。
だが、この主人公は切れ者だったので、あらかじめ「心理試験」の想定問答の練習を周到に重ねた。そして本番では、事件に関する単語が発せられた際、それに動じないばかりか、あえて核心の単語を連想してみせた。例えば、「殺す」という単語には「ナイフ」、「盗む」には「金」と、犯人なら避ける連想を無邪気にしてみせたのだ。一方、友人は事件に関する言葉が発せられる度に動揺し、連想から離れようとしたため、かえって答える時間が長くなった。結果、判事は友人を犯人と断定せざるを得なくなったのである。
さて、話は変わり、いまだ尾を引く飲食業界の「食材偽装問題」である。阪急阪神ホテルズの発表を皮切りに、ほかの名門ホテルや有名デパート、果てはミシュランの星付きレストランまで偽装が発覚した。一連の報道で一躍脚光を浴びた存在が、芝エビの代わりに用いられた「バナメイエビ」だった。2000年以降、東南アジアを中心に養殖が盛んになり、輸入量が拡大。プリプリの歯ごたえとリーズナブルな価格が持ち味だという。