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次のヒントがここに!2013年のヒット商品&プロモーション

「半沢」「今でしょ」「ななつ星」...社会現象で振り返る消費者のキモチ

草場 滋

2013年も残りわずか。今年もさまざまなヒット商品や社会現象が生まれた。生活者のライフスタイルや嗜好が多様化していると言われる中、多くの人を振り向かせることができた商品や出来事には、どんな共通点があったのか。そのキーワードを読み解くことで、来年の生活者の“心のスイッチ”がどこなのか、そのヒントを探る。

    【1-3月】
    「今でしょ」で幕開けた2013年 SNSでますます高まるリアルタイム熱感動を共有できる機会も拡大

    「今でしょ」というフレーズはトヨタのCM以外にも、さまざまな広告で使われた。

林先生の「今でしょ」に見られるリアルタイムへの渇望

昨年暮れに2回目の安倍晋三政権が発足し、同政権が掲げる経済政策「アベノミクス」で幕開けた2013年。景気は緩やかに回復傾向にあると言われる中、まず世間の注目を浴びたのは、意外な伏兵だった。

1月初頭から流れたトヨタ自動車のCMがきっかけで、東進ハイスクール講師の林 修先生が大ブレイク。彼がドヤ顔で発する常套句「いつやるか? 今でしょ」は一躍流行語になり、世間を席巻した。

それはまるで、この年の空気感を先取りするかのような現象だった。今でしょ─そう、「リアルタイムへの渇望」である。皆と一緒に何かをしたい欲望。それが今年、例年にも増して目立ったのは、林先生の流行語と無関係ではあるまい。

例えば、今年顕著に見られた現象の一つに、テレビドラマの初回と最終回だけ視聴率が跳ね上がる現象があった。近年、連ドラは録画視聴が増えて視聴率は下落傾向にあるが、その一方で「リアルタイムで皆と感動を共有したい」と思う視聴者も増えている。その両者のせめぎあいが、初回と最終回の視聴率上昇なのだ。

1月クールに放映され、テレビ界の権威であるギャラクシー賞その他を受賞したドラマ『最高の離婚』も、良作ゆえに録画率が高いと言われつつ、初回と最終回の視聴率が上がったのが印象的だった。

同様の動きは映画界にも見られた。近年、DVDでも見られる旧作映画を全国の映画館で再上映する『午前十時の映画祭』や『バック・トゥ・ザ・シアター』といったイベントが盛り上がりつつある。それもひとえに、多くの人と同じ空間で、リアルタイムでかつての名画の感動を共有したいからである。さらに今年は、その動きが新作映画にも波及した。3月、インド映画を皆で歌って踊って鑑賞する「マサラ上映会」が開催。ハリウッド映画でも、“『パシフィック・リム』絶叫ナイトin 池袋 音量もアゲ目で行っちゃいますSpecial!!”と銘打ち、観客が声を発して盛り上がれる上映イベントが催された。

これら一連の動きの背景にあるのは、近年のSNSの影響だろう。人々はリアルタイムで情報を仕入れ、感動を共有する楽しみに目覚めた。その欲求がこれまでになく高まったのが今年の特徴であり、まさにそれを端的に言い得たのが、林先生の「今でしょ」だったのだ。

柳の下に三匹目のどじょう ふなっしー人気爆発

また、相変わらずの「ゆるキャラ」ブームも留まるところを知らない。今年の顔は、船橋市を中心に活動する梨の妖精という設定の「ふなっしー」と見て間違いないだろう。その人気は、あのくまモンや昨年の「ゆるキャラグランプリ」覇者のバリィさんも凌駕するほどの勢いだ。

ブレイクのきっかけは、今年2月に始まったアサヒ十六茶のシリーズCMで、全国のゆるキャラたちと共演し、抜群の存在感を発揮したことだった。同キャラクターが異色なのは、大抵のゆるキャラは地方自治体などの公認なのに、船橋市の非公認キャラという立ち位置。さらに雄叫びを上げながら俊敏な動きをするパフォーマンスは、ほかのゆるキャラたちと一線を画する。その人気は、今年8月に行われた「ご当地キャラクター総選挙」で1位に輝いたことでも証明された。

くまモン、バリィさんに続き、三匹目のどじょうはいたのである。



    【4-6月】
    ローカルとグローバルに脚光 北三陸の「あまちゃん」と黒船家電の襲来に日本中が沸いた

    子どもからプロの漫画家まで、『あまちゃん』のイラストをSNSにアップする「あま絵」を楽しんだ。

家電の黒船到来 油を使わずカラッと

4月には、海の向こうから脅威の家電がやってきた。油を使わないフライヤー、フィリップス社製の「ノンフライヤー」である。発売されるや否や、その評判が口コミで広まり、全国の家電量販店や通販サイトは売り切れ続出。その飢餓感がさらに人気に拍車をかけ、テレビや雑誌などでも紹介。ブームは一気に加熱した。

人気の秘密は、油を使わないヘルシーさに加え、味も良く、部屋も汚れず、ニオイもつかない“良いこと尽くし”にある。ここ数年、日本の大手家電メーカーがヒット商品を生み出せずに苦しんでいるところに現れたノンフライヤー。既存製品の改良は得意だが、ゼロから発想する新製品の開発は不向きな日本のメーカーにとって、それは、まさに家電業界の「黒船」に映ったに違いない。

さて、そんな4月。出版界では二つのベストセラーが生まれた。村上春樹の3年ぶりの新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』と、2013年本屋大賞を受賞した百田尚樹の『海賊とよばれた男』である。

前者は4月12日の発売日の深夜0時、書店で販売開始イベントが催されるなど大盛り上がりを見せ、1週間で100万部を突破。背景には、SNS時代特有の「リアルタイムで感動を共有したい」ファンの人たちの行動心理があった。一方、後者は昨年7月の発刊以来、口コミで徐々に評判が広がり、本屋大賞受賞で一気にブレイク。これもSNS特有の「良作は口コミで評価される」に沿う結果となった。

そして、同様の現象が、NHKの朝ドラでも見られたのである。

じぇじぇじぇ!遅れて来た「あまちゃん」ブーム

4月1日に始まったそのドラマは、開始から1カ月間ほどは世間も比較的静かだったと記憶している。それが5月に入ると、まずSNS上で盛り上がりを見せ始め、これまで朝ドラを見たことがない若い人たちが飛びついた。同月下旬にはプロの漫画家たちがツイッター上でその日の放送内容をイラスト化するなど、いわゆる業界内人気を獲得。そして6月に入り、一気にブレイク─もうお分かりだろう。NHKの朝の連続テレビ小説『あまちゃん』である。

ツイッターのタイムラインには毎日のようにその日の感想が書き込まれ、ファンは日に4回、地上波やBSで放送される同ドラマを「早あま」「朝あま」「昼あま」「夜あま」と呼んで盛り上がった。

人気の秘密は、クドカンこと宮藤官九郎さんの一見ゆるくも、ち密な計算に裏打ちされた脚本に、主演の能年玲奈の素朴さと彼女を支えるベテラン役者陣のチームワークだ。それに加えて、東日本大震災の被災地の日常を丁寧に描いた世界観や、同ドラマに登場する地方出身者で構成されるアイドルグループ「GMT」に象徴される「地方」を温かく描いた点も支持される要因になった。

奇しくも、『あまちゃん』がブレイクした6月に、リアル世界でもAKB48グループで行われた選抜総選挙で、福岡を拠点に活動するHKT48の指原莉乃が1位を獲得。まさに、「地方発」がトレンドになった瞬間だった。



    【7-9月】
    記録的猛暑 半沢直樹の「倍返しだ!」とロゲ会長の「TOKYO」に人々の心も熱く

    東京五輪の招致チームによるプレゼンでは、滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」というパフォーマンスが話題となった。

倍返しだ!半沢直樹にハマった女性たち

この夏、一つのドラマが日本人を熱くした。主人公の台詞「やられたらやり返す。倍返しだ!」は、サラリーマンのお父さんばかりでなく、家庭の主婦たちの溜飲も下げた。そう、最高視聴率42.2%を叩きだしたTBS系ドラマ『半沢直樹』である。

堺 雅人演ずる半沢は銀行マン。ドラマでは銀行を舞台に、魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした人間模様が描かれた。ラブストーリーやコミカルなシーンとは無縁。ジャニーズの人気俳優が出るわけでも、ファッショナブルな女性たちが画面を彩るわけでもない。

演出を担当した福澤克雄さんは、こう語る。「視聴率を気にせず、自分たちが本当に作りたいドラマを作りました」。それが蓋を開けてみれば、ドラマを最も楽しんでいたのは、女性たちであった。

その事実は、二つのことを教えてくれた。本当に面白い作品は、男女関係なく視聴者の心をつかむこと。そして、もはや男女間で嗜好の差がなくなっていること。

安倍政権の掲げる「アベノミクス」はまだ道半ばだが、世の中の空気に変化があるとするなら、人々の嗜好がより本物志向、高スペックなものへと向かっているのかもしれない。『半沢直樹』のヒットも、その空気感と無関係ではあるまい。

それは、トヨタが発売した「ピンク・クラウン」にも見られる。この9月から1カ月限定で予約を受け付けたところ、予想を上回る650台を受注。実にクラウン全体の10台に1台の割合だった。購入者の内訳は30代と40代が4割で、女性の購入比率が35%。通常のクラウンの顧客層よりも若く、女性も多い。600万円という価格帯を考えると、これまで軽自動車や1BOXばやりだった自動車市場に、価格や利便性以外の選択肢が出てきたと考えてもいいだろう。

お・も・て・な・し 2020年へ吹き始めた風

今夏の平均気温は、西日本が観測史上最高、東日本も3位と記録的猛暑になったが、そんな中、家電業界で好調だった商品が、韓国企業のレイコップが開発した布団専用ダニクリーナーである。

ヒットの要因は、コンパクトなボディにUVライト+たたき機能で、用途を布団のダニ除去に特化したこと。日本の家電メーカーは1台ですべてをこなすオールラウンドプレイヤーを目指すので、この種の商品は生まれにくい。また、効果の見えにくいUVライトといった機能も、日本では良くも悪くも二の足を踏む。

9月に入ると、嬉しいニュースが南米のブエノスアイレスから飛び込んできた。2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催決定である。檀上のロゲ会長が「TOKYO」と発した瞬間、会場にいた日本の招致チームだけでなく、中継を見ていた日本人全体が歓喜に沸いた。

この国は、時代が行き詰まると、時々外国からの風を受ける。鉄砲伝来、黒船、アメリカ進駐軍─ロゲ会長が発した一言も、7年後の日本への追い風になることを期待したい。



    【10-12月】
    アベノミクス効果か 豪華寝台列車「ななつ星」とこだわりのコンビニコーヒーに“本物”を求める客の波

    『日経トレンディ』(日経BP社)が選ぶ「2013年ヒット商品ベスト30」で、「コンビニコーヒー」は1位に選ばれた。

九州版オリエント急行 ななつ星登場

10月15日、JR九州が20年以上も温めてきた豪華寝台列車「ななつ星」が運行を開始した。それは、九州版オリエント急行とうたわれる通り、豪華そのもの。内外装のデザインは同社の観光列車を多数手がけた水戸岡鋭治氏。車中の装飾は木目を基調とした和洋折衷。九州の美食を楽しめる食堂車やピアノの生演奏を楽しめるラウンジなど、まさに走るホテルである。定員は30名で、運賃は3泊4日で最高98万円。それでもキャンセル待ちが2000組以上もいるという。

「ななつ星」が人気を博した理由は、ただ豪華なだけではない。料理の一品一品、調度品の一つひとつに至るまで、九州ならではの"本物"を追求したからである。

つまり、その良さが分かる人が利用する。オリエント急行がそうであるように、乗客のスマートな振る舞いもまた、「ななつ星」を構成する重要な要素なのだ。

一方、東京の原宿・表参道ではこの秋、新しいムーブメントが見られた。それは、低価格を売りとした人気雑貨ストアの相次ぐ東京進出だ。大阪から来た「ASOKO」に、デンマークから上陸した「フライング タイガーコペンハーゲン」。

両者とも、ただ安いだけでなく、流行に敏感な若者たちの感性をくすぐる品ぞろえが魅力である。それゆえ、ファストファッションならぬ、ファスト雑貨と呼ばれる。

コンビニコーヒーが火付け役 第三次コーヒーブーム

皆さんお気づきだろうが、最近のコンビニは、どこもかしこもカウンターに専用のコーヒーマシンを置いている。先駆けはサークルKサンクスで、これにローソンとファミリーマートが追随し、この9月にセブンイレブンが全店への導入を終え、いよいよ各社揃い踏みとなった。

人気の秘密は、安く、淹れたてのコーヒーを飲めること。セルフサービスや、セットに多少の時間がかかることを差し置いても、人々がそれを選ぶのは、おいしいコーヒーを飲みたいからである。

実は、都内には最近、自家焙煎のコーヒーショップのオープンが相次いでおり、80年代後半の第一次コーヒーブーム、90年代後半のスターバックスなどの日本上陸による第二次コーヒーブームに続く、豆にこだわる「第三次コーヒーブーム」と言われる。その火付け役がコンビニコーヒーというわけだ。

そんな中、百貨店業界に目を向けると、何やら別のベクトルが伺える。10月、百貨店が集まる主要3都市で、奇しくも「呉越同舟」と言える動きが見られたのだ。

大阪では、阪神梅田本店と高島屋大阪店が同時に「楽天うまいもの大会」を開催。二つの百貨店を結ぶ専用バスを設置するなど、相乗効果による集客アップを図った。

東京・新宿では、伊勢丹、小田急百貨店、京王百貨店、高島屋、丸井、ルミネが参加してファッションショーを開催。ファッションの街・新宿を印象付けた。一方、銀座でもそれに対抗すべく、例年、松屋銀座と銀座三越が共同で開催する「ギンザファッションウィーク」に、今年からプランタン銀座が加わった。

なぜ百貨店業界はライバル同士で協力し合うのか。もはや縮小する百貨店のパイを個別でなく、業界全体で広げていこうという算段である。

以上の動きから、2014年を占うと、「超ボーダレス化」というキーワードが見えてくる。

ドラマ『半沢直樹』に女性視聴者がハマったように、男女の市場のボーダレス化はさらに進み、『あまちゃん』やななつ星のヒットなど、地方と東京の情報発信力の差もますます縮まり、海外から国境を越えて「黒船」たちが続々と日本へ進出し、そして百貨店業界に見られるように、業界のボーダレス化もますます進む。

そして極め付けが、売り手と買い手のボーダレス化だ。今や「一億総表現者」と言われるほど、誰もがSNSなどで情報発信者になる時代。お客がファンになると、商品の魅力をタダで発信してくれる。

その意味で、売り手と買い手双方が気持ちよくなれる関係を築いたところが、2014年の勝ち組に一歩近づくだろう。

イラスト:高田真弓

草場 滋氏(くさば・しげる)

メディアプランナー。エンタテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組「逃走中」を企画。著書に「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)、「一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード」(実務教育出版)、「テレビは余命7年」(大和書房)ほか。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。

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