北野エース 東武池袋店には、350種類以上の全国各地のご当地カレーが並ぶ。「何でもある」ではなく、「この分野ならここしかない」という高度な専門性と差異化が百貨店には必要となる。
百貨店はいま岐路に立っている。松坂屋銀座店は88年の歴史に幕を降ろし、新業態への転換を決めた。一方、「劇場型百貨店」の阪急うめだ本店や、日本最大級の売り場面積で「街のような場」を標榜するあべのハルカス近鉄本店のように百貨店の復権を図る例もある。高度成長期の業態である百貨店は、シニアシフトの進展に合わせてどのような進化の方向性が求められているのだろうか。
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「何でもあり」より「この分野ならここしかない」
従来、百貨店とは「百(=多くの)貨(=モノ)店」であり、多くのモノを売るところ(買うところ)だった。高度成長期の家庭にモノが不足していた時代に、そこに行けば何でも買うことができる場所が百貨店だった。しかし、低成長・モノ余りの時代には、単に「何でもある」だけでは、もはや差異化にはなり得ない。むしろ「この分野ならここしかない」という高度な専門性と差異化が必要だ。
池袋・東武百貨店の地下に北野エースという食品スーパーが出店している。ここの売りは、他店にはない徹底した品ぞろえだ。例えば、全国各地のご当地カレーは、東武池袋店なら350種類以上を取りそろえている。普通のスーパーにはない、その地方でなければ買えない商品がたくさんあるので見るだけで楽しい。楽しいから多少高くても買ってしまう。この例は東武百貨店自体の商品ではないが、池袋・東武百貨店という抜群の集客力をほこる店舗のテナントであるがゆえに、こうした差異化力のある売り方が可能になるのだ。
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「商品シーズの羅列」より顧客ニーズに合わせた「商品シーズ編集者」
これまでの百貨店における商品展示の仕方は、その商品を製造・販売している「メーカー」や「ブランド」の順であることがほとんどだった。例えば、紳士服売り場に行き、スーツ、シャツ、ネクタイ、靴などをトータルにコーディネートしたいと思っても、それぞれの売り場がブランドごとにばらばらにあり、デザイン、品質、価格を相互比較して納得した上で購入することはほとんど不可能だ。顧客本位と言いながら実は仕入れの都合を優先した「売り手本位」である場合がいまだに多いのが実情だ。
しかし、数年前に紳士服に特化した新宿・伊勢丹メンズと有楽町・阪急メンズ東京がオープンしてから、ようやく「売り手本位」のスタイルが変わりつつある。これらの店舗は、男性用品という分野で「商品シーズの羅列」から顧客ニーズに合わせた「商品シーズ編集者」に向かっているからだ。今後は、男性用品だけでなく、シニア顧客のニーズに合わせた「商品シーズ編集者」にも進化しなければならない。
この「商品シーズ編集者」には、(1)顧客の潜在需要に「共感」するテーマ選定力を持ち、(2)高度な顧客相談対応力を持ち、(3)商品の豊富な選択肢と品ぞろえを徹底すること、が求められる。目の肥えた年配客には、中途半端な内容だと相手にされないからだ。