平日昼の「カフェ ラ・ボエム」には、子ども連れの若いママたちが多く集まる。彼女たちは、必ずしもファミレスを選ぶわけではない。
高度成長期に業績を拡大してきた企業には、いまだに若者やファミリー層を主要ターゲットにしているところも多い。年々売り上げ減にさらされているにもかかわらず、従来のビジネスモデルからなかなか脱却できていない業態の一つがファミリーレストランだ。こうした業態では、シニアシフトの進展に合わせて新たな方向性が求められている。本稿ではその勘所を述べる。
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退職シニア層には「第三の場所」の機能を提供する
ファミリーレストラン最大手のすかいらーくが、約1300店ある「ガスト」を2014年から4年間で130億円を投じて全店改装する。改装の柱はシニア層への対応だ。4人がけのボックス席は背もたれを高くして個室感覚で使えるようにし、内装も落ち着いた木目調などにするとのことだ。しかし、せっかく多額の投資をするのであれば、退職シニア層のニーズを捉えた本質的な改装に踏み込むべきだ。そのカギとなるのは「退職者のための第三の場所」の機能である。
「第三の場所」とは、かつて社会学者のレイ・オルデンバーグ(RayOldenburg)が、自著『The GreatGood Place』の中で家庭(第一の場所)でもなく、職場(第二の場所)でもない「第三の場所」が社会的に重要な機能を担っていることを指摘したことで有名になった言葉だ。
私はこの言葉を発展させ、「退職者のための第三の場所」が今後、広く求められていくことを10年前から提唱してきた。このコンセプトは、大きな反響を呼び、シニア向けカフェなどのサービスに反映されてきた。近年コメダ珈琲などのシニアをターゲットにしたカフェが増えているのは、まさにこの機能を提供していることにほかならない。しかし、「退職者のための第三の場所」は、カフェだけが唯一の形態ではない。「退職者のための第三の場所」の本質は、会社を辞めて毎日行く所のなくなる退職者のための社会的居場所だ。だからカフェ以外のいろいろな形態が考えられる。従来のファミレスは、この社会的居場所の受け皿になることで成長市場となる可能性がある。自宅以外の書斎・知的作業スペース、打ち合せスペース、同窓会・勉強会会場、懇親会場などいろいろな機能が考えられる。実はこうした機能は銀座ルノワールがコーヒーショップを基軸に展開してきたものだが、ファミレスの今後の方向性としても十分可能性がある。