電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛け合わせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。

雲のような地模様と縞模様を併せもつ紙
50年以上の歴史があるファインペーパー「プリマ」が2024年10月、刷新され「プリマN-FS」が発売された。FSC森林認証紙となったほか、250kgの厚物が加わり連量が5種類に。雲のような地模様とフェルトマークによる縞模様を掛け合わせた、やや黄色がかった白色が特徴だ。
今回、春の訪れを感じさせるようなブックジャケットをデザインしたのは柏木美月さん。モチーフとなった窓の向こうには、山や河川のような光景が広がっている。「本の中の景色を覗き見るイメージです。プリマN-FSの優しい風合いから想像した春の気配が芽吹く世界を描いて、細かなグラフィックを重ね合わせたら面白いのではと考えました」。
よく見ると、表1と表4を横断して「春」という漢字が隠れている。元のデザインはIllustratorで描いているが、モーショングラフィックの制作などに用いるAfterEffectsを使って映像化し、1コマずつ動かすことで細やかに調整を重ねていった。「映像用のソフトを使うことで、計算できないグラフィックが生まれる面白さがあります」(柏木さん)。
最も苦労したのが、緑、濃緑、蛍光ピンク、銀、金の組み合わせ。いずれも特色を使っているため、それぞれ1版ずつ印刷する必要がある。鮮やかな発色と奥行きある仕上がりを実現するため、刷る順番や色の濃度、抜き合わせなどを慎重に検討しながら制作を進めた。
自身も読書好きだという柏木さん。このジャケットに合う本の一例として、三島由紀夫の『春の雪』をあげた。「3月は冬から春へと移り変わる、はざまの時季。本を読みながらブックジャケットの手触りとともに、風を感じるような空気感、きらきらとした春の訪れなど、さまざまな物語の情景を感じていただけたら嬉しいです」。

おぎはら園(cl:おぎはら園)

をく(cl:DAY inc.、THAT'S ALL RIGHT.)

東京造形大学校友会報(cl:東京造形大学校友会)
今月使った紙:プリマN-FS
地合い崩しによるゆったりとした雲のような地模様と、フェルトマークによる繊細な縞模様とを掛け合わせたファインペーパー。リニューアルに際し新たに四六判Y目250kgが加わり、並製表紙やカード、封筒など幅広い用途でご使用いただけるFSC森林認証紙となりました。

柏木美月(かしわぎ・みつき)
東京造形大学在学中より永井裕明に師事し、卒業後も永井の主宰するN.G.inc.に入社。2023年にフォトグラファーの伊藤僚哉と共に伊藤柏木デザイン事務所を設立し、現在はビデオグラファーの金子玲も加わり、ジャンルを横断して3人で活動中。
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