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青山デザイン会議

異業種コンテンツに飛び込む武器「パイロット」の可能性

川村真司、栗林和明

映画や番組の制作前に試験的につくられる短い映像「パイロットフィルム」をご存じでしょうか。名作映画から最新作まで、そうした貴重な映像を集めた映画祭「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」が、2024年12月に開催されました。発起人を務めたのは、Whateverの川村真司さんと、CHOCOLATEの栗林和明さん。川村さんは2023年4月、伝説的な彫刻職人・左甚五郎を主人公にした木彫人形によるストップモーションアクション時代劇『HIDARI』のパイロット版を公開し、YouTubeで445万再生を記録。栗林さんもほぼ同時期に、江戸時代が続く日本で3人組の主人公が「決闘配信」により成り上がっていくアニメーション『KILLTUBE』のパイロット版を制作、製作費10億円を集め、2026年の劇場公開を目指しています。広告業界で多数の実績を持つ2人のクリエイターはなぜ、パイロットフィルムという武器を持って、映画の世界に飛び込んだのか? オリジナルのコンテンツを育てる意味や、今後の展開について聞きました。

パイロットフィルムだけを集めた映画祭

川村:僕がWhateverという会社をつくった理由のひとつに、ミュージックビデオや映画といった広告以外の仕事も積極的にやっていきたいという思いがありました。うちの会社では、企業が持っている課題を解決する「コミッションプロジェクト」のほか、自社で手がける「オリジナルプロダクト」も推奨していて、予算のあるなしにかかわらず、面白ければともかくやってみるという方針があります。

栗林:僕は2017年まで博報堂で広告の仕事をしていましたが、「いくらバズったとしても、本当に人の心を動かせているのだろうか?」という問いが生まれ、ゼロから修業し直そうと退職を決めました。とにかく広告には、コンテンツの知恵を注入した方が面白くなるし、人の心も動かせる。それは逆もしかりで、コンテンツにはもっと届け方の知恵を入れた方がいいと考えて、その両方の活動を続けてきました。

川村:2021年にスタートした『HIDARI』というコマ撮り時代劇映画のプロジェクトも、オリジナルプロダクトのひとつ。その「パイロットフィルム」(映画制作前にテストとしてつくられる映像)を公開して長編の資金調達に動き始めた頃、同じようにパイロットフィルムを公開していた栗林さんの『KILLTUBE』を知ったんです。

栗林:これまで多くのコンテンツに関わってきて、その集大成として行き着いたのが映画。かつ成長し続けるIPとしてアニメーション作品をつくって旗を立てないと、次のステージには行けないと感じて、人生を賭けてそこに挑もうと。

川村:『KILLTUBE』も同じく映画化に向けて動いていると聞き、何か一緒にできないかと声をかけたところ、2024年12月に「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」を開催することになりました。

栗林:僕も『HIDARI』には注目していて、勝手ながらシンクロしていると感じていたので、二つ返事で快諾しました。

川村:完成した作品を集めた映画祭ではないので、人が来てくれるのか不安はありましたが、蓋を開けてみれば全席ソールドアウト。映画業界の方からも「勉強になりました」とか「勇気をもらいました」といった声をいただくことができました。

栗林:アンケートでも「また来たいと思う」という方が9割以上、ゲストの方からも「意味のあるイベントだ」と言ってもらえたので、本当にやって良かったなと。

川村:宮崎駿さんや大友克洋さんの幻の作品も上映できたし、トークとセットで観せられたのも良かった。一番心に残っているのは、『化け猫あんずちゃん』のプロデューサー・近藤慶一さんの「パイロットづくりは失敗するほど価値がある」というコメント。

栗林:映画祭のハイライトになる言葉でしたね。個人的に印象に残ったのは、50年以上前につくられた『ルパン三世』のパイロット。全キャラを魅力的に描きながら、全く色褪せていないのが衝撃的で。

川村:パイロットフィルムって、最近のトレンドかと思っていたのですが、そうではないんですよね。今はYouTubeなどで公開もしやすくなっているので、パイロットフィルムをきっかけにもっとユニークで…

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