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女性の事業承継をサポート 当事者の声から生まれたデザイン

エヌエヌ生命保険

エヌエヌ生命保険は今回初めて、グッドデザイン賞を受賞した。法人向け保険事業のエンドユーザーとなる中小企業や自営業者の隠れた課題でもある、「女性の事業承継」というシーンに着目。経営者である夫の事業を承継した、あるいはその可能性がある女性たちを支援する3つのサービスを体験デザインのアプローチで設計した。

「経営者の妻」の不安やリスクに着目

今回、受賞対象となったのは、実際に事業承継した女性経営者を支援する「女性社長のココトモひろば」、女性の事業承継を支援する団体同士をつなぐ「女性のための事業承継ステーション」、中小企業経営者の妻にフォーカスして情報を発信する「経営者の妻のための情報サイト つぐのわ」の3つのサービス。2017年から構想がスタートし、2020年から2021年にかけてそれぞれのサービスがローンチされている。

「女性社長のココトモひろば」。

「経営者の妻のための情報サイト つぐのわ」。

「女性のための事業承継ステーション」。

立ち上げのきっかけとなったのは、夫の急逝により、突然経営を引き継ぐことになった女性たちの声だった。「保険会社として、経営者の死亡による保険金請求の際に何かできることはないかという思いがスタートでした」とエヌエヌ生命保険カスタマーエクスペリエンス部部長の小橋秀司さんは説明する。「実際に保険金請求の手続きをされた約300社に手紙を送り、約30人の方々にインタビューさせていただきました。経営者が急逝した際にどのようなことが起こっているかを探ったところ、親族内承継に限れば女性が継ぐケースが半分ほど。そのうちの3分の2は配偶者の方が継いでいるということがわかりました。中には専業主婦など経営にノータッチだった方が、突然家業を継ぐケースもあります」。

そこで浮き彫りになったのは、事業を承継する女性たちが直面する深い不安や悩みごと。ある試算では日本には100万人以上の「中小企業の経営者の妻」がいると推定でき、彼女たちは事業承継の潜在層でもある。ところが身近に同じ立場の人や相談相手がいないケースがほとんど。そこで女性経営者との幅広いネットワークを持つ、コラボラボ(東京・千代田区)と協業。当事者の不安や悩みの軽減へ、新たなサービスを立ち上げていくことになった。

一連のサービスは外部のデザインファームとともに、デザインシンキングのフレームワークを用いて設計。「当初から体験デザインを念頭に置いていました。立ち上げから数年経ち、3つのサービスそれぞれに手応えが感じられたことから今回のグッドデザイン賞に応募しました」(小橋さん)。

事業承継の潜在層となる1万人が登録

2020年1月に開設された「ココトモひろば」は夫や家族の他界により突然社長になった女性経営者が登録し、同様の経験を持つ人同士で不安や悩みを共有するWebコミュニティ。約150人が登録している。「孤独や不安を吐き出す場。同じ境遇の人が世の中にいるという事実を共有し、一人でも救われる方がいれば」と小橋さん。

一方、官民から支えるための土台づくりが必要という考えから生まれたのが、2020年4月開設の「女性のための事業承継ステーション」だ。事業承継の支援団体や自治体の取り組みをつなぐプラットフォームとして、関連するイベントや記事など役立つ情報を発信。全国各地の団体間の連携も強化し、リソース共有や協力も促進してきた。さらに2021年10月に開設された「つぐのわ」は、全国1万人以上の中小企業経営者の妻が登録する情報サイト。前述の2つのサービスとは異なり、対象は経営者が存命の妻たち。すなわち事業承継する可能性がある予備軍でもある。経営者の急な離脱に備えるための情報を提供することで“もしも”の事態への備えを促し、中小企業の円滑な事業承継をサポートしている。

とはいえ「備えが必要とわかっているけれど、実際のアクションに繋がらない」という状況もある。そこで2022年から、「つぐのわ」では川柳コンテストを開催してきた。経営者の妻の体験を川柳として応募してもらうもので、入賞作は「『守るから 君も会社も』プロポーズ」「継がないを 継ぐよに変えた 夫の背」「社長待つ 客をトークで つなぐ妻」など、共感できるシーン、切り口が詰まっている。「当事者同士が緩やかにつながり、共感し合うきっかけになっています。直近では約2000通もの応募があり、今年度も3回目を開催し募集中です」と話すのは、同社カスタマーエクスペリエンス部マネージャーの林佳寿子さん。

現在はサービスを広げる施策として、川柳の応募作品をSNSで積極的に発信。調査パブリシティも強化し、全国の中小企業経営者を対象に「配偶者との関係」「デジタル終活」などの意識調査を実施した。「妻の方が夫との“心の距離”を感じており、その差は11倍以上」「デジタル終活を知っている人は25.6%」といった結果をプレスリリースとして発表し、話題創出にも力を入れる。

「経営者の妻の悩み、課題への理解がまだまだ浸透していないのが現状。まずは広く課題を発信し、潜在層の方々に入口として『つぐのわ』を知っていただきたい。そのためにも恒久的にこの仕組みを維持することが重要だと考えています」(小橋さん)。

事業承継した女性社長のストーリー動画も公開。(左から)「承継直後の多忙な日々」篇、「先代(夫)との思い出」篇、「女性経営者のこれから」篇。

審査委員講評:

事業経営においては、男性がモデルとして構築されている制度がまだまだ多い現状があると言えます。そのなかで、経営者の妻という見落とされがちな存在をつなぎ、支援団体の連携を推進しながら事業継承の「前後」を支えるこれらのサービスは、経営者を「ひと」と捉え、心理的安全性を確保しながら経営者としてエンパワーメントすることを考えるにおいて、重要な示唆をもたらしてくれるものと考えます。

田中みゆき(たなか・みゆき)
キュレーター/
プロデューサー


審査委員講評:

小規模企業にとって事業継承は難しい課題ですが、経営者の死亡によって妻が経営を引き継ぐ場合には、その苦労は計り知れません。保険事業者が課題を抱えた人々の声に耳を傾けて、解決すべき課題に対し、人を中心にして多面的にサポートする事業スキームはデザイン的なアプローチです。特に継承する担い手の心をケアするという活動姿勢に評価が集まりました。

廣田 尚子(ひろた・なおこ)
デザインディレクター /
ヒロタデザインスタジオ 代表

    お問い合わせ

    エヌエヌ生命保険株式会社

    URL:https://www.nnlife.co.jp
    メールアドレス:il-jp-cep-team@nnlife.co.jp

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