福里真一さんを中心に、第一線で活躍するCMプランナーが年に一度集まる「明るいCMプランナーの会」。6回目の今回は、電通の有元沙矢香さんをゲストに迎え、「よいWebCM」と「よいテレビCM」について、真正面から話し合いました。
多彩な表現が広がる「WebCM」をどう考える
福里:毎年の年末行事のようになってきました、「明るいCMプランナーの会」。CM制作において決定的な役割を担うCMプランナーという立場から、毎年その年のCMを振り返っています。前回は「『カロリーメイト』の受験生応援CMがACC賞で4連覇するのを、CMプランナーの名にかけてなんとしても阻止しよう」と話しましたが、あっさり達成されてしまいました。決して明るい気持ちではないかもしれませんが(笑)、元気にCMの話をしていきましょう。今回のゲストは電通の有元沙矢香さんです。「M-1グランプリ」のムービーは昨年のこの会でも大絶賛されましたね。ACC賞でもゴールドを受賞しています。
有元:よろしくお願いします。
福里:さて、今回のひとつめの質問は「今、WebCMはどういうのがいいんですか?」と聞いてみたいです。私も審査員を務めた今年(2024年)のACC賞Bカテゴリー(オンライン動画部門)では、ACCグランプリの「特別じゃない、しあわせな時間。」に始まり、「ティロリミックス」「スマイルあげない」と、マクドナルドが席巻していました。その中から20秒という尺で“何も起こらない”「特別じゃない、しあわせな時間。」がグランプリになったことについてCMプランナーたちはどう考えるのか。一方で、サントリー/ザ・プレミアム・モルツの「無言の父たち」篇など、いわゆる王道的な、長尺でストーリーをつくって共感を得るものも広告電通賞で最高賞を取るなど評価を得ています。これまでのWebCMの潮流を振り返ると、長尺が流行り、その後長尺なんて誰も見ないということでダンス系が出てきたりといろいろありましたが、今WebCMはどうなっているのでしょうか。
神田:以前はテレビCMとWebCMとでざっくりとカテゴリー分けされていましたが、今は一口にWebと言っても、YouTubeやTikTokなどある程度成熟した多数のプラットフォームがあります。それぞれ異なる視聴態度の特性があるので、つくり方が多様化している、という状態じゃないでしょうか。たとえばYouTubeは音楽と相性が良いから「ティロリミックス」のような音楽をベースにした企画がフィットするし、TVerはテレビに近いから商品関与度の高いテレビCM然としたつくりの映像も受け入れられるし、Xでは「特別じゃない、しあわせな時間。」のようにGIFアニメ的な繰り返し視聴に耐えられる表現が好まれる。一概に「WebCMはこうした方がいい」と言いづらい時代になりました。
福里:そうですよね。今回のACC賞Bカテゴリーの受賞作はどう見ました?
神田:面白いと思った事例に共通しているのは、商品やブランドが存在することを活かして、面白さを追求しているものです。「ティロリミックス」ではアーティストの楽曲とブランドの「ティロリ音」をマッシュアップしていましたが、一般の方が自主的に楽曲のマッシュアップを公開してもここまで話題になっていなかったと思います。マクドナルドという身近なブランドが“公式”として大胆なマッシュアップを成立させたという点がやっぱり面白い。広告だから、ブランドが介在するからこそできる面白さを追求している動画は強いですね。
福里:なるほど。有元さんはACC賞のフィルム部門の審査に参加していましたけど、いかがでしたか。
有元:私も「ティロリミックス」は一押しでした。ストーリーがあって4分間全く飽きずに見れましたし、主人公を応援するポテトのキャラクターにも愛着が湧きました。それがブランドへの愛着にも繋がると思います。審査は、異なる世代の審査員での議論だからこその学びがありました。私の世代はテレビCMで育ってきましたが、SNSやYouTubeにもネイティブに接していて、テレビCMの延長線上にある広告的なWebCMも使うプラットフォームによっては通用すると思っています。でもさらに下の世代になると、「広告っぽい香りがした瞬間に絶対見ません」というのがリアルなんだなと実感しました。
大石:僕もWebCMをすぐスキップしてしまうので、感覚はよくわかります。一方でクリエイター視点でいうと、WebCMの良さは、若手でもクリエイティブディレクターとして打席に立てることが多いので、“代表作”をつくりやすいところだと思います。最近だとアドビの「PDFラブレター」はWebCMながら、最後まで見てしまいました。これもBOVA(ブレーン主催の動画コンテスト)への応募作で、比較的若いチームでつくっていましたよね。
「テレビ」と「デジタル」のつくり分け、どうしていますか?
福里:「PDFラブレター」はたしかにおもしろかったし、恋愛モノ好きの大石さんに刺さるのもわかりますね。続いて山本さんは、どちらかというとテレビCMの仕事が多いように思いますが、WebCMをどう見ていますか。
山本:最近は「コンテンツ化」「CM化」と分かれていっている気がします。主にテレビCMをつくっている身からすると、ブランドリフトするにはコンテンツ的なアプローチは相性がいいと思いますが、生活用品の売上を高めたいという場合には、CM然としている方が効いたりする。いずれにせよ全ての広告がコンテンツ化することはないと思うので、CM然とした中で精度を上げていくことも重要と考えています。
福里:山本さんは、テレビCMもデジタルも両方走らせるキャンペーンのCDを務めることも多いと思うんですが、両方とも自分で担当していますか。そういう切り分けって、今どうしたらいいんでしょう。
山本:悩みどころですね。理想としては、テレビCMもデジタルも一気通貫したひとつの軸があって、その上でそれぞれに最適化させていく、ということだと思います。
福里:そのひとつの軸っていうのがあった方がいいのかどうかというのもありますよね。テレビCMでは俳優を起用しているけど、デジタルやWebCMでは一切登場しないってことあるじゃないですか。たとえば先ほど触れた「プレモル」のWebCMにも、テレビCMに出ている広瀬すずさんは登場してないですよね。
山本:そうですね。軸は俳優のほか、たとえばコピーとか、もっとその先のブランドのパーパスだったりを据えるとかそれぞれやり方があると思います。
福里:ちなみに、チームのスタッフィングはテレビCMとデジタルとで分けていますか?
山本:テレビCMとデジタルともに大元の軸となる部分は皆で考えて、撮影あたりから分業していく流れが多いですね。
福里:そうですよね。私もつい花田礼さん(電通)にデジタルを任せたいと思ってしまいます(笑)。続いて、吉兼さんもテレビCMをつくり続けているイメージですが、WebCMをどう見ていますか。…