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青山デザイン会議

日本の美しさを世界に届ける表現

河野英輔、髙森美由紀、ユイ・メンドーザ

2024年の訪日外国人旅行者数が過去最多を更新するなど、インバウンドが再び盛り上がりを見せています。

集まってくれたのは、さまざまなプロジェクトや作品を通じて、日本の文化や地域の魅力を発信し続ける3人。TBSの人気番組『世界遺産』に番組開始時から長年携わり、2016年からは文化庁の認定する日本遺産の映像化に従事、国内の旅行事情にも明るい、TBSスパークルのプロデューサー河野英輔さん。2023年に公開された映画『バカ塗りの娘』の原作『ジャパン・ディグニティ』をはじめ、北東北を舞台にした小説、児童文学を書き続ける、作家の髙森美由紀さん。2019年にフィリピンから来日、山形県に住みながら企業や地元自治体のプロモーション動画やショートフィルムを多数手がける、映像監督のユイ・メンドーザさん。

インバウンドが好調な中で生まれる温度差や、SNSやYouTubeを通じた観光誘致プロモーションの変化と課題、さらに外国人に響くクリエイティブや表現とは?日本の美しさを世界に届ける“ストーリー”を考えます。

インバウンドの“温度差”

河野:TBSスパークルという制作会社で、2015年に文化庁がスタートした「日本遺産プロジェクト」のプロデューサーをしています。元々20年以上、TBSの番組『世界遺産』の担当だったこともあって『日本遺産』にも関わることになり、4Kの映像と音楽、ナレーションで、15分ほどの紀行ドキュメンタリーを59本制作してきました。

髙森:私は青森県に生まれて、ずっと地元で仕事をしながら、小説を書いてきました。2013年の「ちゅうでん児童文学賞」をきっかけにデビューしたのですが、そのとき作家の今江祥智先生から「自分が知っているものを徹底的に書くように」という言葉をいただいて、それから地元をテーマにした作品を書き続けています。

ユイ:フィリピン出身で、大学院でマスコミの勉強をしたあと、2019年に日本に来ました。2年前に会社を立ち上げて今、映像を中心に、企業や地方のプロモーション動画などを制作しています。

河野:インバウンドって、そもそも東京オリンピックに向けて需要を喚起していこうという動きだったのが、コロナでいったん止まってしまった。今はまた外国人の姿をよく見かけるようになりましたが、日本全国全ての地域が恩恵を受けているかというと、温度差は感じますね。

髙森:私の住んでいる三戸町って、岩手県との境目にある本当に小さい過疎の町なので、そもそも外国からの観光客はあんまり来ないんです。プロフィールを拝見したら、河野さんは盛岡市のご出身ですよね。最近ランキングに入りませんでしたっけ?

河野:『ニューヨーク・タイムズ』の、「2023年に行くべき52カ所」の上から2番目に入りましたね。地元の人間も「なんで?」と不思議がっていましたが、その波に乗って外国人観光客が増えたと聞きました。

ユイ:自分が活動しているのも、同じ東北の山形県。一番有名な観光スポットは『千と千尋の神隠し』のモデルといわれる銀山温泉なのですが、観光客の90%ぐらいが外国の方ですね。

髙森:どこの国の方が多いんですか?

ユイ:ヨーロッパの方もいますし、台湾やインドネシア、フィリピンなどアジアも多いですね。ただ、次の日にすぐ東京に戻ってしまうとか、写真や動画だけを撮りに来る人も多くて、どうしたら山形県のほかの観光地を回ってくれるかが課題です。

河野:日本遺産の場合も、インバウンドが盛んな今も四苦八苦している地域は多いですね。たとえば、銀山温泉のように明確にビジュアルイメージがあるところとないところでは、雲泥の差があって。

ユイ:きっかけとしては、やっぱりSNSやYouTubeが多く、改めてメディアや映像の影響がどれだけ強いかを実感しました。

河野:いつも地方のプロモーションを見ていて残念なのは、どうしても行政主導になってしまうところ。そもそも「魅力」というのは、外の人が来て感じ取るものであって、一方的に地元から発信するっていうのは違うんじゃないかなと。もちろん、そこにずっと暮らしてきた人たちが感じる魅力はあるはずなので、本当の地元民が、地元民の言葉で発信できる仕組みができたらいいんだろうなとは思いますけどね。

ユイ:今は、いいカメラさえあれば、誰でもきれいな映像が撮れる時代。ただのきれいな映像を乗り越えて、人の心を動かせる映像にできるかが、自分のチャレンジだと思っています。

河野:SNSがあるので、有効な手段で発信ができれば広がり方は変わっていくのかなと。いずれにしても数打っていくつ当たるかの世界であることは間違いないので。

場所から生まれるインスピレーション

ユイ:プロモーション動画で一番意識しているのは、テーマやストーリー。たとえば、山形県最上町はかつて馬を生産していたのですが、若者たちもその歴史を知らなかったんです。そこで、それを伝える「EMMA」という作品を…

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