「2030年のSDGsの達成に向けた創造的な解決策」が対象となるカンヌライオンズのSDGs部門。今年現地での審査にあたった電通グループのグローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー北風祐子さんが、審査の過程で重視したこと、賞の在り方について感じたことを振り返る。
審査員にも多様性
今年初めてカンヌライオンズの審査に参加しました。まず感じたのは、審査員の多様性。10人の審査員のうち女性は4人で、拠点とする国・エリアも、南米、パキスタン、中央ヨーロッパ、アフリカ、韓国、そして日本など、多様な構成でした。また各メンバーの専門分野も特徴的で、広告会社のクリエイティブから5人(審査員長含む)、クライアント企業から3人(ユニリーバ、マスターカード、スタンダード銀行グループ南アフリカ)、本部門の創設にも携わった国連のグローバル・コミュニケーション局アウトリーチ部部長、そして私、という構成。私には、チーフ・サステナビリティ・オフィサーとしての視点が求められている、と感じました。
SDGs部門では審査員全員が事前審査を行った上で、現地での本選に臨みました。事前審査では、審査員が2グループに分かれて、応募作品の6割ずつを審査しました。事前の打ち合わせの際に話したのは、インパクトを重視しようということ。つまりキャンペーンで終わったものではなくきちんと社会を動かしたものを選んでいこう、ということです。
グランプリとゴールドの境目は
口頭での審査も経て、最終的にグランプリに選んだのは、ルノーによる求職者への支援策「Cars to Work」(01)です。公共交通機関のないフランスの地方に住む求職者に向け、就職後にローンで支払いをする前提で、試用期間中からルノーの車を無料で提供するという施策で、“ビジネスも成長させるグッド” である点が評価されました。フランスの公共職業安定所とも連携し、国内の50のルノーのディーラーでサービスを提供。初年度は6000台が提供されたといいますが、社会課題の解決がルノーの成長にも貢献している。つまりCSRだけではなくビジネスも成長しているという点がポイントだったと思います。

01 ルノーの「Cars to Work」。「就職するためには通勤をする車が必要」「車を買うためのローンを組むには定職に就かなければいけない」という課題の悪循環に悩む人々に対し、先に車を提供し、就職後にローンを支払っていけるサービスを提供。
実はグランプリの決定にあたっては、このルノーを含む3作品での決選投票となりました。ひとつはコロンビアの水処理機器...