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青山デザイン会議

行政になぜ、デザインが必要か

浅沼尚、江島宏、中山郁英

1999年7月にスタートした青山デザイン会議も、なんと300回目。その間にも、「デザイン」がカバーする領域はどんどん広がっていきました。今回取り上げた「行政とデザイン」も、連載開始当時は実現しえなかったテーマのひとつかもしれません。集まってくれたのは、2021年9月に設立されたデジタル庁にCDO(Chief Design Officer)として入庁、現在は大臣を補佐するデジタル監として、デジタル政策・サービスの実現と組織運営を行う浅沼尚さん。佐賀にゆかりのあるクリエイター・デザイナーとネットワークを構築し、プロジェクトを推進していく仕組みとして、2015年にスタートした「さがデザイン」で総括監を務める江島宏さん。滋賀県長浜市を拠点にさまざまな地域の活動に関わる一方、行政とデザインをテーマに研究を続け、今年7月には『行政×デザイン実践ガイド』(ビー・エヌ・エヌ)を上梓した中山郁英さん。ここ数年、クリエイティブ人材が登用されるケースが増えるなど、注目を集める行政とデザインの関係を掘り下げます。

デザインは新しい「価値」をつくる方法論

浅沼:2021年9月、デジタル庁の立ち上げにあたって、CDO(Chief Design Officer)として入庁して、2022年4月からデジタル監というポジションで仕事をしています。ざっくりいうと企業のCOO的な立ち位置で、政策やサービスを進めるときにどうオペレーションを回していくか、また行政の中でデジタル庁という組織をどう機能させていくかを考えるのが主な役割です。

江島:私は県庁職員として、2020年から「さがデザイン」というプロジェクトの総括監を務めています。それまでは公務員らしく、土木や福祉、まちづくりなどいろいろな部署を転々としてきました。

中山:私は滋賀県長浜市を拠点に、地域資源を活用した新商品開発をしたり、公設民営のデザインセンターを立ち上げたり、さまざまな地域の活動に関わってきました。また2023年、行政組織とデザインをテーマに博士号を取り、この7月には『行政×デザイン実践ガイド』をいう本を出版しました。

江島:さがデザインは、現在の山口祥義知事が就任した2015年にスタートしました。当時は「行政の中でデザインって、一体何をやるんだろう」という状態で、とにかく佐賀にゆかりのあるデザイナーやクリエイターに会いに行って、ネットワークをつくるのが最初の仕事だったと聞いています。

中山:行政の世界でデザインが注目されるようになったのは、2000年代に入ってから。ヨーロッパを中心に「公共イノベーションラボ」といった組織がつくられ、デザインの手法を使ってプロジェクトを進める流れが生まれました。日本では、2018年に経済産業省と特許庁が発表した「デザイン経営」宣言や、同年に初版が策定された「デジタル・ガバメント実行計画」などを通じて、デザインの重要性が語られ始めたという印象です。

浅沼:そもそもなぜ行政にデザインが必要なのかと考えると、行政の役割が、今までのように道路や橋をつくっておしまいという形ではなくなってきたから。公共財を提供するだけでなく、それを活用して新しい価値を生んでいく、「パブリックグッズ」を「パブリックバリュー」に変えていくことが求められています。

中山:また、そうした価値を行政だけではなく多様なアクターと一緒につくっていく、そのための方法論として、デザインが注目されているのだと思います。

浅沼:個人的には、従来のアウトプット主義からアウトカム主義へ、公共の考え方を変えるというのも、デジタル庁の大きな役割だと捉えています。新しいサービスは、つくるだけではなく、どう使ってもらって価値と感じてもらえるかまでしっかり考える。ただ、今までの行政人材だけでは難しい部分もあるので、外から専門家を入れて一緒に取り組むというのが基本的なアプローチだと思っています。

江島:そういう意味でいうと、さがデザインは少し違うスタイルで、あくまで地域にゆかりのある外部のデザイナー、クリエイターとゆるく繋がって、佐賀のことを一緒に考えていこうというもの。前例踏襲だったり形式主義だったり、いわゆる "行政あるある" を打破するために、クリエイターの皆さんのアイデアを取り入れていくという考え方です。

中山:以前、取材させていただいたときも、ただ図書館をつくって終わり、公園をつくって終わりではなくて、そこで豊かな時間を過ごせる価値を生み出すことを目指しているとお話しされていましたよね。デザインってすごく学際的なので、分野横断型の取り組みに繋がることも多いですし、結果として部署の壁が突破されることもある。

浅沼:また競争の場が生まれたり、触媒として化学反応を起こしたり。誰の価値をつくるかという点についても、「国民の誰」もしくは「どの事業者」というふうに…

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