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明るいCMプランナーの会

プランナーたちが考える 今、届くCMとは?

明るいCMプランナーの会 2023→2024

福里真一さんを中心に、第一線で活躍するCMプランナーが年に一度集まる「明るいCMプランナーの会」。5回目の今回は、博報堂の德岡淳司さんをゲストに迎え、今気になる若手監督の躍動、広告賞の在り方など4つのテーマについて話し合いました。

演劇を背景に持つ2人の若手監督の躍動

福里:今年もはじまりました。昨年名前を「哀しき」から「明るい」に変えたことで、身も心もすっかり明るくなった(笑)CMプランナーの会です。CM制作において決定的な役割を果たすCMプランナーという立場から、2023年を振り返っていきましょう。

今回、吉兼(啓介)さんは残念ながら体調不良でお休みです。

そして今回のゲストには、博報堂の德岡淳司さんに来ていただきました。担当されたMIXIのWeb動画シリーズ「俺たちのモンストーリー」は、2023年の「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」(ACC賞)のフィルム部門Bカテゴリーでグランプリを受賞されましたね。おめでとうございます。

德岡:ありがとうございます。4年目で27歳の德岡です。よろしくお願いします。

福里:すごいですね、4年目でグランプリ。さて、その繋がりで、今回の1つ目のトークテーマは「若手CMディレクターの躍動~岩崎裕介さんや泉田岳さんを中心に~」です。岩崎さんは、德岡さんと組んだ「俺たちのモンストーリー」でグランプリ、そしてグランプリを最後まで争った「明治エッセルスーパーカップ」の「日々」シリーズ(ゴールド)も手がけ、関西電気保安協会「相方が関西電気保安協会になってしまった男」もシルバーと、Bカテゴリーは岩崎監督祭りになっていました。同じく2023年のTCC賞では、「スーパーカップ」で審査委員長賞の受賞者にも名を連ねています。

一方、泉田さんはACC賞のフィルム部門Aカテゴリーでヒノキヤグループ「Z空調の家」シリーズや、BotExpress「ある市役所で」篇がシルバー。TCC賞では「婦人画報のお取り寄せ」のCMで、同じく受賞者に名を連ねています。TCCで受賞者になるということは、演出だけでなく企画やセリフも担当されている、ということかと思います。かなり際立って活躍しているお2人ですが、まずは德岡さんが「俺たちのモンストーリー」で岩崎監督に頼んだ経緯から聞いてみたいです。

德岡:最初の企画の段階では、累計1000万人以上いる「モンスト」ユーザーの実際にあったエピソードを形にする、ということだけは決まっていました。その後のエピソードを選ぶ過程から、監督に入ってもらう方が最終の着地も見えやすく、面白くなるのではないか、と。そして、どういうトンマナの映像にするかを考えていた頃、岩崎さんが監督した「明治エッセルスーパーカップ」の「日々」シリーズが公開されたんです。普通の何気ない日常を、過度な演出を加えずにドラマとして成立させている、それが狙いたい方向性と近かったので岩崎さんにお願いしました。5000件以上集まったエピソードを岩崎さんと一緒に目を通して選び、その場で「このエピソードはこういう映像にできる」といった話もしながら進めていきました。

福里:その制作プロセスでは、なにか際立った特徴とかはありました?

德岡:エピソードの中にモンストをきっかけに出会って結婚しましたというものがあったんですが、時系列が飛んでいるエピソードは描きにくい、ワンシチュエーションの方がいいと、演出の視点から指摘をいただきました。あとは岩崎さんも僕も、学生時代は教室の隅でゲームをやっていたタイプの人間だったので、少しでも嘘っぽい要素があると気になるというか、美談に敏感なところがありましたね。

福里:その2人の感覚と、ゲームのシズル感が合っていたんですね。栗田さんはACC賞の審査員でもありましたがどう見られました?

栗田:素晴らしいと思いました。それまでソーシャルゲームの広告は射幸心を煽るものが多かったのが、人生における「モンスト」の存在感やその良さを提示していて、同時にクライアントの課題も新鮮な切り口で解決している感じが良かったですね。演出でいうと、ノンタレの役者の使い方がすごく上手ですよね。キャスティングがうまいなと思っていました。

德岡:岩崎さんはキャスティングにこだわられますね。僕が勝手に「劇団岩崎」と呼んでいる、よく岩崎さんの仕事に出られる役者さんたちがいまして、その方々は岩崎さんが表現したい方向性をつかむのがすごくうまいんです。セリフの言い方ひとつとっても、ここは「なっ!」じゃなくて「ぬあ!」なんだとか、すごくこだわっていました。

福里:セリフの「間」も独特ですよね。岩崎さんが以前に手がけた「ハット首脳会談」(2022年公開、ピザハット、イエローハット、リンガーハットのコラボCM)はその真骨頂という感じで、ストーリーとかいうよりもただただ「間」がおもしろいというものでしたよね。この岩崎さんならではの「間」を表現できる場として、オンライン動画というのは相性が良いのかなと。でも一方で、たとえばサイボウズ「kintone」のCM「オフィス」シリーズなど、秒数が短いテレビCMでも、ちゃんと同じような印象は受けるんですよね。

神田:僕も何回かご一緒していますが、岩崎さんは「ノーミーツ」などで今も劇作家として脚本を書いてもいるんですよね。だから配役がうまいのも、演劇感覚で役者の設定や人物像を深掘りして、この人はそんなに裕福ではないから、こういう部屋に住んでいるだろうと、細かく背景の設計をしている感じがしました。きっとリアルなものが好きなんですよね。

福里:「リアルさ」はおそらくキーワードですよね。

山本:泉田さんが手がけたホットペッパービューティーのWeb動画「春」と同じような感じで、リアルで等身大だけど、完成度が高くて、共感が持てる。結果そのブランド自体も好きになれる感じですよね。

「CMっぽくないCM」をCMプランナーはどう見るか

鈴木:演劇をやっている人たちの時代が来たなと思いました。泉田さんも「劇団ドラマティックゆうや」を主宰されていて、セリフや間が両者ともナチュラルで。僕はCMをつくる時、訴求するために意図的に、引き算・足し算しようっていう風に考えてしまいがちなんですけど、お2人は全く違う感じがしました。

福里:それありますよね。これまでの優秀なCM監督には、訴求のために到達すべき点から逆算して伝え方を考える、というプロがたくさんいて。それが今の時代には広告臭く見えてしまう面もあると思うんですが、この2人はあたかも逆算していないかのような自然さがあります。

鈴木:そうですね。15秒のテレビCMだと最短距離で映像をつくらないといけないですが、Bカテゴリー(オンライン動画)は良い意味で遠回りのセリフ劇など、間をうまくつくれるんでしょうか。一度お願いしてみたいです。

大石:「モンスト」は、企画自体も素晴らしいと思いました。僕は2年前に「モンスト」を担当させていただいたことがあったんですけど、結構難しくて。というのも、長くゲームをやっている上級者の人たちと、初心者と、両方への配慮をしなければいけないんです。德岡さんたちの仕事は、上級者も俺たちのモンストってこれだよねって共感できつつ、初心者もこういうゲームいいなって、両取りできていますよね。

福里:大石さんは、泉田さんとは仕事したことありましたっけ?

大石:U-NEXTの「2人とU-NEXT」シリーズでご一緒させてもらいました。面白かったのが、僕がセリフを書いて泉田さんに演出をしてもらったんですけど、演出コンテをアップしてくださる時に「悔しいですが、このセリフに勝てなかったです」って言ってくださって。セリフに対して強い意識があるなと思いました。

神田:僕も泉田さんとご一緒したことがありますが、岩崎さんとも共通して思うのは、狙いによってはCMプランナーが企画を考えない方が得策になる場合がある、ということ。僕らはCMプランナーとして育ってきて、脈々と受け継がれてきたCMの潮流的なものを通じて企画をつくったりするんですが、お2人はそれとは全く別の演劇という世界からCMを見ている感じがするんですよね。だから監督自身が台本を書いてそれを仕上げると、CMの外側にある新鮮な空気が出てきて、今っぽい上がりになる。課題によってはそれが向いている時もあります。

福里:そうですね。昔は川崎徹さん、瓦林智さん、山内ケンジさんなど企画も演出もというCMディレクターが何人もいましたが、最近は少なかったのかもしれません。

泉田さんが手がけた「婦人画報のお取り寄せ」も、やはり逆算ではない感じというか。私がつくろうとすると、どうしてもメッセージにピッタリと着地させたくなってしまうんですが、あえてちょっとモヤモヤッとさせたまま、完全にはピッタリとさせずに終わりますよね。それが世の中でも広告賞でも高く評価されているということは、もしかして自分がやってきたことは間違っていたのか!?とは思いましたね(笑)。

神田:僕もプランナーとして育ってきたので、若手のディレクターの「CMっぽくないCM」を最初はどう受け止めたらいいんだろうと戸惑いました。でも今はCMの変わり目のタイミングなんだろうな、と思うようになって。だから「CMっぽいCM」は、それはそれであっていいと思うんですけど、もっとCMの新しい可能性を探っているものを積極的に受け入れたり広げていったりしないと、発展がないですよね。

福里:そうですね。私もBot Expressの「ある市役所で」篇は、見た時に抜けのいい風が吹いた感じがしたんです。「市役所に来てもらわずともスマホでできるようになったら便利じゃない」っていう提案自体も気持ちがいいし、それをCMならではのフックとかもつくらず、そのままサラッと描いている。伝えたい内容とも合っていて、なんだか新しい感じがしましたね。

栗田:たしかに、登場人物が視聴者に語りかけるんじゃなくて、視聴者が登場人物に対してちょっと前のめりに、能動的になる感じがしますよね。

神田:あと「ある市役所で」篇は、CMプランナーの目線で見ると企画コンテ段階で省くであろう要素も含まれていますが、映像としては結果的に効く要素になっていて。ああいう見せ所を理解してつくれているのが魅力的に感じました。

大石:いわゆるCMっぽくないCMが、広告としてどのくらい機能しているのか、というところは気になりますよね。

山本:リクルーティングなどに効果があるんじゃないですかね。背景には、CMの役割の変化もありそうです。物事や数字を大きく動かすことだけではなくなってきたのかもしれません。

鈴木:たしかにそうですね。となると、CMプランナーの役割も変わってくるんでしょうか。今まではCMプランナーが綿密にコンテを割って、セリフをきっちりとつくることが誇りだったりもしたじゃないですか。アクティベーションを担当するスタッフが、パワポに写真を貼ってざっくりした設定をクライアントにプレゼンをするのを見て、どこか歯痒さを感じてしまう自分もいたんですが、この泉田さんや岩崎さんのような方々に、セリフ劇からお願いすることによって、もはやそれが正攻法になっていく感じもしています。これからアクティベーションの子たちは、もっといい動画をつくり出すんだろうなと。

福里:篠原誠さんが以前、「CMプランナーは商品説明をセリフやストーリーにうまくトレースしているだけだから、『三太郎』(au)ではそれをやめたくて、CMの途中までは全く関係ないストーリ―を展開して、最後の言葉だけで商品に落とそうと考えた」という話をしていて。たしかに否めないというか。私たちの仕事は、今回訴求したいポイントはこれとこれで、それをいかにいい感じにストーリーの中で処理するか、という側面がありますよね。「処理」という言葉はいい言葉ではないけれど、そういうCMは事実多い。でも、CMプランナーが若手ディレクターと組むことで、そういう思考の枠から自由になっていくのはいいことですよね。では栗田さん、例のごとくまとめをお願いします。

栗田:難しいですね(笑)。実は僕らが子どもの頃のCMも、訴求点に直接向かっていないものも多かった気がするんです。ですが、だんだん広告が効率重視になって、表現もどんどんわかりやすくなってきた。だからこそ逆に今お2人のようなCM表現が新しく見えてきたのかもしれません。似通っていたCM表現の中に、ひとつの橋が架かった感じがしました。

「個人賞は必要か?」広告賞との付き合い方

福里:では続いてのテーマに移りましょう。2つ目は、「広告賞との付き合い方」です。今4年目の德岡さんは、目指している広告賞があるか、というあたりから聞いてみたいです。

德岡:僕はコピーライターなので、入社時からTCC新人賞はずっと憧れていて。今回(2023年)受賞できた時は嬉しかったです。TCC年鑑を見るときにも、作品も見るけど人を見てしまいますね。若い人が最初に旗を立てる手段としては、新人賞が一番有効なんじゃないでしょうか。同世代もそう感じている人が多い気がします。

山本:ACC賞もカテゴリーが増えてきて多様化している分、僕が若手だった頃のようにTCC新人賞に特化して目指している人の割合は減っているかもしれません。

栗田:電通の若手に聞いても、TCC賞の新人賞を獲りたい、という人は多いですね。でも、いわゆる出品できるような広告をつくる機会自体が減っているようです。その一方で、クリエイティブの定義が広義になってきている中、より幅広いものを評価していこうという意向は審査員側に増している気がします。

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