2023年度のグッドデザイン賞は、国内外から5447件の応募があった。今回から審査委員長を務める齋藤精一さん、審査副委員長に就任した倉本仁さん(プロダクトデザイナー)、永山祐子さん(建築家)が本年度の審査について総括する。
未来を想像できるデザインは世の中をよりよくする
齋藤:今回のテーマは「アウトカムがあるデザイン」。エントリー時点で、開発経緯などデザインを生み出すプロセスが明確になっている対象が多く見られました。
倉本:アウトカムは「成果・結果」と訳されますが、齋藤さんが"北極星"と表現するように「プロジェクトがどこに向かうべきかを指し示し、未来を想像できるデザイン」という思いを込めています。
永山:未来に向かう姿勢を改めて意識させるテーマだったと思います。デザインは積み上げていくもので、過去と未来を繋ぐデザインをするにあたって持つべき姿勢が示された今回は、新たな出発点といえるかもしれません。大賞の「52間の縁側」をはじめ、未来志向の作品が評価されています。
齋藤:マイクロイシューやマイクロコミュニティの課題解決のためのデザインが目立ちましたね。よりよい社会を目指すための道具や考え方、活動などが見られ、グッドデザイン賞は世の中をよりよくするデザインが集まる賞だと改めて思いました。
永山:グローバルイシューよりもマイクロイシュー、というところがこの賞らしさかもしれません。
倉本:スモールコミュニティにデザインを活かす流れはこの10年ほど続いていて、大賞はもちろん、金賞を受賞した「エンドーのげそ天」などは、その代表例といえます。
齋藤:「52間の縁側」は、デイサービスなどを運営しているオールフォアワンの石井英寿さんとデザインした建築家の山﨑健太郎さんの2人の人間性が共存していると感じました。"共生型"のデイサービスというアウトカムがあったからこそ、高齢者向けの施設でありながら子どもたちや地域の人たちも一緒に過ごせて、そこで生活する代わりに施設の手伝いをするというシステムが生まれたのでしょう。
永山:管理優先になりがちなデイサービスにおいて、訪れる一人ひとりにとっての本当の幸せは何かという根源的な問いに立ち返り、人間としての生き方を優先する事例を示しました。今後のデイサービスを変えていくきっかけになればいいですね。
倉本:従来は経営者や企画者がゴールを決め、その後にデザイナーがアサインされる形が多かったと思います。現在は早い段階で建築家やデザイナーとともに、ゴールやそこへ到達するための手段を考えるようになってきました。大賞はその好例です。
齋藤:大賞候補のパナソニックの電動シェーバーは、社内のデザインセンターから事業部に製品開発の提案があったといいます。トヨタ「プリウス」や、JVCケンウッド・デザインと日産自動車、フォーアールエナジーによる「リユースバッテリー内蔵ポータブル電源」なども大企業として企画を通す難しさもあったはずですが、いずれもしっかりとしたアウトカムを伴って取り組んでいたのだろうと感じました。
倉本:大企業が、社内デザイナーを企画開発の上流に据えた効果が表れてきましたね。金賞のソニー・インタラクティブエンタテインメントのゲームコントローラー「Accessコントローラー」も、以前からデザインを基軸に据えていた企業だからこそ生まれたのでしょう。
永山:私はNHKによる市民科学プロジェクト「NHKシチズンラボ」も印象的でした...