「2023年度グッドデザイン賞」受賞対象1548件の中から大賞に選出されたのは、千葉県八千代市にある地域共生型のデイサービス「52間の縁側」。そこには、ローカルイシューを解決するデザインと未来があった。

(左から)プロデューサーのNPO法人わっか 宮本亜佳音さん、オールフォアワン 代表の石井英寿さん、建築家の山﨑健太郎さん。
縁側は、内でも外でもない曖昧な場所
鬱蒼とした竹やぶを抜けると現れる、美しい梁が印象的な約80メートルの木造の建物。ここは、2022年12月、千葉県八千代市米本にオープンした宅老所(デイサービス)「52間の縁側」だ。運営するのは、習志野市でも同様のサービス「いしいさん家」を手がけるオールフォアワンの石井英寿さん。石井さんの元に集まるのは、高齢者のほか子どもや赤ちゃん、障害者などさまざま。認知症や統合失調症を抱え、ほかでは入所を断られてしまう"強者"も多い。こうした人たちをどのようにケアしていくべきか、それは「地域で見るしかない」と話す。
設計は、2015年グッドデザイン・未来づくりデザイン賞を受賞した「はくすい保育園」などを手がけた建築家の山﨑健太郎さん。そして、石井さんと山﨑さんの2人を結び付けたのが、米本地域で10年以上にわたってコミュニティ活動を行うNPO法人わっかの宮本亜佳音さんと、夫で不動産会社ダイビームを営む尚徳さんだった。
米本には106棟から成る巨大な団地があり、かつては大きな賑わいを見せていたが、現在では高齢化が進み、孤独死や困窮といった課題も多い。以前から「石井さんに、ぜひ米本に来てほしい!」と話をしていた宮本さん夫妻によれば、2人は"介護の変態"と"建築の変態"。「石井さんが思い描く施設を、健太郎さんなら形にできるのではないか」と考えたという。
建築をするにあたって見付けたのは、最寄駅から車で20分ほどの場所にある南北に長いL字型の土地。西側には崖があるため、敷地の半分程度までしか建物が建てられない。山﨑さんは「敷地の端にまとまった建物を建てるよりも、リニアな形状を活かした方が可能性がある」と感じたそう。
介護上のオペレーションを考えると、決して使いやすい土地とはいえない。でも地域に開くためには...