東京コピーライターズクラブ(TCC)による、2023年度TCC賞の各賞が発表となった。今回はどのような視点で入賞作が選出されていったのか。最終審査委員たちの講評から探ります。
2023年度TCC賞 受賞者リスト
TCCグランプリ
日本マクドナルド/ビッグマック/TVCM
「俺たちまだまだビッグマックなんて、ペロリだよ。」
TCC賞
大塚製薬/カロリーメイト/WebMovie
「自分達にはコロナのない中で過ごした学生時代がないのではない
コロナ禍で過ごした学生時代があるのだ
『あの頃に比べれば』と力をくれるであろう学生時代は自分達は誰よりも格別だ」
アイフル/営業広告/TVCM
「あんたそこに愛はあるんか?」
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ハースト婦人画報社/婦人画報のお取り寄せ/WebMovie
「どれもおいしいなんて最初から正解を知っているようなズルくなった気がするの」
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キユーピー/キユーピーマヨネーズ/雑誌他
「ヒトはその食物が育った環境を食べている。
ON THE EARTH」
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Bot Express/Bot Express/TVCM 他
「めんどくさい事 やってますね
めんどくさい事させてたんじゃないかな…
そろそろ、町のふつうが変わらなきゃ。」
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さとふる/さとふる/TVCM
「わたし今、ふるさと納税にたとえられた?うれしい!」
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本田技研工業/HondaJet シェアサービス/ポスター
「日本中の空に、近道をつくれ。」
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ストライプインターナショナル/earth music&ecology/ポスター他
「もう争わなくていいとママは言った。
世界中のママは言った。」
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大和ハウス工業/企業/TVCM
「わたしたちは“自由”を持っている。
うまくいかなくてもいい、という“自由”を。」
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大塚製薬/カロリーメイト/TVCM
「進もう、すべてを栄養にして。」
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日本マクドナルド/マックシェイク カルピス/TVCM 他
「夏は、吸い込むものだ。」
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ECC/企業広告/アドボード
「『運転手さん、前の車を追ってくれ!』
“Driver! Follow the car in front!”」
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Indeed Japan/企業広告|#これでいいのか
ハロー、ニュールール!/アドボード
「馴染みのない日本語『妻の転勤で引っ越します。』
#これでいいのか」
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日本放送協会(NHK)/展覧会 岡本太郎/その他映像(TV番組)
「TAROMAN」
2023年度 TCC新人賞 受賞者リスト
TCC最高新人賞
青森県/青天の霹靂/WebMovie 他
「お米を買って帰ろう。あ、袋はいいです。そのままで」
TCC新人賞
眞露/チャミスル/WebMovie
「でこ先で送る君へのメッセージ
おでこアンニョン」
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ACジャパン/全国キャンペーン
(不寛容な時代~現代社会の公共マナーとは)/TVCM
「たたくより、たたえ合おう。」
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講談社/『ザ・ファブル』/アドボード
「※広告規制により、サンマを持たされています。」
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MIXI/モンスターストライク/WebMovie
「いつまでも 引っ張っていたい 日々に。」
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全国都道府県及び全指定都市/クイックワン/WebMovie
「人生はスキマだらけ
スーパーで特売シールが貼られるのを待つ時間
着陸した後、立ったけど通路の列が進まない
オペレーター待ちで流れる『エリーゼのために』がもう8周目」
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小学館/サッカー漫画『アオアシ』/WebMovie
「おまえ見てると、俺はもうプロになれない人生だなって分かるんだ。」
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赤城乳業/フロリダサンデー/TVCM
「フィラデルフィア ケンタッキー バーモント
アメリカの地名はどうしてこうも旨そうなのだ。
そして、こちらはフロリダサンデー」
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NKB レッツエンジョイ東京/偏愛東京/ポスター
「細い路地に入りたくなる。
谷根千は、人をちょっと猫にする。」
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新潮社/新潮文庫/WebMovie
「名作って、秒でオチがわかんない。
だから、コスパ最強。」
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エフエム群馬/特殊詐欺対策キャンペーン/ラジオCM
「僕のおばあちゃんは話し続けた。
僕ではない、赤の他人を相手に。」
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ヘラルボニー/企業広告/アドボード
「鳥肌が立つ、確定申告がある。」
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雪印メグミルク/雪印コーヒー/WebMovie
「3日坊主?すごいよ!3日も続けられて!
#雪コに甘やかされたい」
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オートバックスセブン/オートバックス車検/WebMovie
「かかりつけ整備士を持とう。」
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みんなのマーケット/くらしのマーケット/WebMovie
「失恋すると、人は何も手につかない。
恋をしても、人は何も手につかない。」
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Indeed Japan/企業広告|#これでいいのか
ハロー、ニュールール!/新聞
「これでいいのか?」
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やおきん/うまい棒/Web広告
「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」
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日本AED財団/救命サポーターアプリteam ASUKA/WebMovie
「頭が真っ白になることを前提に、AEDはつくられている。」
TCC審査委員長賞
明治/明治エッセルスーパーカップ/WebMovie
「ふつうの日、スーパー最高では?」
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大阪ブレストクリニック/企業広告/ポスター
「医療は奇跡の人を対象にしない。」
審査委員長 太田恵美
グランプリは「ペロリだよ」、最高新人賞は「差し色」「袋はいいです」。カジュアルでいてシズルがあるこのワードを、私も強く支持をした。ペロリに至っては死語ギリギリをコピーライターが救い出した感すらある。今回、一般部門は審査委員の持つ「ふるい」が一つ増えた。投票を重ねられても結果をだした上記2作は見事と言うしかない。また、今年の受賞者の中にラッパー神門さんの名前が見つかるが、彼の役割を丁寧にヒアリングした結果であったことを記しておきたい。
今回、審査委員長の半被を着せられて思うところはいくつかあった。広告の文案をここまで何度も何度も読み、語りに耳をそばだて、自分のザワザワした部分を分析してみたりする、なんてこと、この審査がなかったらやっていただろうか。生活者は、普段こんなふうに広告に接してはいないし反応も鈍いわけだから、狭い同業者同士が行う審査は、実に異様だ。いったん世に放たれた広告のコピーやシナリオを、年に一度、同業者それもコピーライターだけが集まって愛おしく「吟味し合う」TCC賞が、そもそも珍しいしシブい企画だ。そこが面白いし、価値がある。そう、特異だが開かれた存在というのがいちばんかっこいい気がするが、どうだろう。
秋山晶
世界のすぐれたCMには社会的背景、時代の状況を反映したものが多い。「ビッグマック」は違う。「ビッグマック」そのものの純CMだ。永山瑛太と竹原ピストルが一気に全力で走る。背景は無いも同然の野原。純CMは批評も、ニュースも、何もない。感動した。
「南アルプス天然水」パワフルな水の映像。地下水の創生か。地上への噴出か。音がいい。創られたリアルはシュールだ。「鳥は言った。――。谷は言った。――。」コピーがいい。ナレーターはそれぞれ違う。演劇なのだ。
「コーヒーニューニュー」不思議なニュアンスの映像だった。ウェス・アンダーソン?犬ヶ島?そして、気づいた。この映像には影がない。アバターか。そこは不確かな壁にかこまれた街だった。すぐれた広告に会員と新人の差は無い。広告に時代性は必要だ。そして、時代性と無縁の広告も可能だ。Web広告を作りたくなった。
麻生哲朗
この数年はコロナと向き合うという正義が広告への取り組みをある意味容易にしていた側面もあっただろう。多くの広告が正義の味方になろうとした。そのほとぼりが覚めてテーマや手がかりをにわかに見失った戸惑いが今回はあった気がする。新人賞がやや低調に感じられたのはおそらくこれと無関係ではなく、TCC賞もそんな過渡期でもブレずにスタンスを貫き通してきたものが結果残った様子もある。本来広告は正義を必要としないと僕は思う。片想いや愛嬌をどう言葉にするのか。新しい扉を思いきり良く開くことができるのか。我々が試されるのは来年のTCC、つまり今年の仕事ではないかと思った。
有元沙矢香
最終審査、選りすぐられたものなのでどれもいい。その中で何を選ぶか、こちらのコピーへの価値観が問われているのだと、最終審査委員の重みを改めて実感しました。はじめての最終審査委員だからできることをしようと思い、これまでの受賞結果も何も気にせず、とにかく言葉の力を感じるものに投票しようと決めました。「大自然よ、ぼくたちのピュアな部分になってくれ。」やっぱりいいなぁとか。アイフル、なんで獲ってなかったの?とか。ただ、審査会場という特殊な掲出場所は本当に難しい。生活の中でいいと感じたものが意外とうるさく見えたり、気温と騒音の違いで広告はこんなにも違って見えるのかと、とても勉強になりました。
安藤隆
去年も賞をとった作品が、ことしもノミネートされているケースとか、それに類した毎年同じような顔つきの広告が恒例のように出てきているケースでは、「なるべく」ですが、それには入れないで、コピー年鑑の顔ぶれを新しくしていきたいと臨みはした。これはTCC賞モノだなと思っても、どこか嫌なところを嗅ぎつけると、入れなかったりしたら、わたしの選んだものはあまり賞をとらなかった。ある種の完成度の高いCMが、その完成度のゆえに、どこか今日的な価値観から外れていく傾向が、時代の変遷として興味深かった。Web動画という自由度の高いジャンルからの侵食なのかなとも思いますが、ここはこれからも注視してゆきたい。
磯島拓矢
マクドナルドのCM群が印象に残りました。あの手この手で人の気持ちに触れようとしてくる感じ。超有名超巨大企業だからできるクリエイティブ実験のようで、興味深かったです。グランプリはその中のひとつですが、キャッチフレーズ一発で「商品名」「その特長」「ターゲット」「そのインサイト」すべてを解決していて、爽快感すらありました。こういうの、久しぶりではないでしょうか。
一倉宏
優しくてヒューマンな仕事が好んで選ばれた印象があります。コロナもウクライナも影響していないわけはないですが、そんな時代の空気が背を押しているかもしれません。まず常連組にそれを感じ、Bot Express「ある市役所で」などもそうでした。コピーの「1行の力」としては、ビッグマックとマックシェイク。どちらも切れ味鋭く(同部屋同士の?)面白い勝負となりました。最高新人賞は長尺のWebムービーながらも、その柱となるコピーがしっかりできていて見事でした。その他、新潮文庫の広告でTikTok「名作を3秒でまとめると」など、工夫を凝らしたWeb系の力作に時代の風を感じます。
井村光明
僕がグランプリ投票で入れたのは一般部門が「夏は、吸い込むものだ。」、新人部門は「寛容ラップ」。前者は今年一番発見のある言葉、後者は今年一番メジャーな言葉だったと思ったからです。が、全体的には2022年ならではの作品がもう少し残ってほしかったというのが感想でした。コロナから日常に戻りつつある現れでもあるのでしょうが、TCC賞の存在感が以前ほどではないように感じる今、外を振り向かせるにはやはり時代を感じさせる言葉を発信したかったなあと。まあ、自分で書けよという話なのですが。
ところで今年のファイナリストは厳しく絞られたったの15本。しかしこれは良かったと思っています。「日本郵便」をはじめこの15本はTCC賞だったと思っていい。ファイナリストが価値あるものになったのではないでしょうか。
岩田純平
最終審査で票を投じたのは、「ON THE EARTH」「入学から、この世界だった僕たちへ。」「俺たちまだまだビッグマックなんて、ペロリだよ。」「夏は、吸い込むものだ。」「HONDAJet」「ECC お相手は、一般の方です。」「タウンワーク」「ひるマック」「EMシステムズ エンドロール」…