電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛け合わせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。
日本の技術を用いたイタリア発の紙
イタリアの製紙メーカー・FAVINI(ファヴィーニ)社の企画のもと、日本で製造されたファインペーパー「FAVINI TOKYO(ファヴィーニ トーキョー)」が2023 年4月に発売された。イタリアから見た日本の都市の現代性を表し、錆や石、コンクリートなどモダンな建築物の資材を思わせる7 色の展開が個性的なファインペーパー。色の濃淡が出るほどに深みのある独特なテクスチャーを施したエンボス加工は、日本の高い技術が活かされたものだ。
7色のうち赤錆のような色合いの「Rust(ラスト)」で、ブックジャケットを制作したのは石塚俊さん。一目見て、「他にはない質感や色味で、イタリアの人たちが思う日本のイメージの解釈とのズレも面白い」という印象を持った。「中でもRustは独特の色。グラデーションで金属が腐食して赤い錆がでてくるような様子を表現したいと考えました」。
そこで上部には紙地の色を残し、下部にはオフセット印刷で白を2度刷り。さらに青と黄の特色を重ね、金属が腐食するさまを表している。全体に配置したのは、ストリートの落書きのような文字の数々。揺らぎのある文字の輪郭や釘で引っかいたような線にはデボス加工を施し、鉄粉のように銀色の箔を重ねた部分も。波線やノイズのある荒れた線は、石塚さんが近年取り組んでいるモチーフのひとつでもある。かすれた箔の隙間から紙地の色がまだらに見え、錆のような質感をあえて生み出している。
実はここには、6つの異なる言語でいずれも「不滅」を意味する言葉が描かれている。石塚さんがミラン・クンデラの小説『不滅』を制作中に読んでいたことに由来するものだ。「この紙は、かつての日本が描いた未来像である近代建築を連想させますが、現存するそうした建物も失われつつあります。朽ちていく赤い錆と『不滅』という言葉との出会いによって、未来のことを考えるきっかけになればと思います」(石塚さん)。
今月使った紙:FAVINI TOKYO
2023 年4月発売の新しいエンボスペーパーです。イタリアFAVINI社が企画し日本国内で製造。特殊エンボス技術による深みのあるテクスチャーと、「日本の都市の現代性」をコンセプトに、錆や石、コンクリートなどを思わせるカラーで、イタリアと日本の美的感覚を融合しました。FSC® 森林認証紙のファインペーパーです。