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企業の資産を活かす 事業デザインのための「共創」プロセス

「デザイン思考」の集合体で未来を構想する「デザインコミッティー」の思考

小西利行(POOL)

2025年に開催が予定されている大阪・関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。そのためのコンセプトに、「People‘s Living Lab」(未来社会の実験場)と掲げられている。この実験場において、どんな未来社会がありうるのか、そしてどうすればその実装ができるのかプロセスを構想してきたのが、デザインに関連する幅広い業界において知見・経験を有す13人のメンバーで構成された「Expo Outcome Design Committee」(EODC、2021年12月3日から2022年3月31日にかけて設置)だ。

EODCに広告・コミュニケーションの専門家として参加していたPOOLの小西利行さんに、この場での経験を踏まえ、これからのクリエイターが実装すべき考え方について聞いた。

図/「デザインコミッティー」の思考

より複雑化した課題にアプローチ

──EODCは「多様なデザイナー・クリエイターの協力を得て、デザインの視点から改めて博覧会を展望する試み」とされていました。ここでは具体的にどのような思考がされていましたか。

今世の中に浸透してきている「デザイン思考」は、デザイナーの思考様式をビジネスに活かすべく体系化したものです。企業においてスピーディーに顧客の課題を見極めて、プロトタイピングと検証を繰り返しながら適切な解決策を導くために有効だとされています。デザイン思考のポイントは、僕は「課題発見」と「効率化」にあると考えています。従来、デザインはビジネスの終わりの方で商品やサービスを人により魅力的な形で届けるために用いられていました。

でもその商品やサービスはマーケティングプロセスで積み上げて生まれているので、「これって本当に今求められているの?」とずれがあることも。そこでよりビジネスの上流、課題発見の段階からデザインの思考を用いることで、適切な課題設定ができ、結果として効率よくビジネスを成長させていける、と。言いすぎかもしれませんが、「企業がクリエイティビティをより効率的に用いる方法」であると思います。

その思考を通じて生まれた解決策は、短期的に企業の成長を伸ばすことができると思います。ただ、地球や国、自治体、グローバル企業などの単位だと、課題は非常に複雑化します。たとえば環境問題を考えるときは、その環境を維持していく未来のための教育、食やエネルギー、建築の問題などが複層的に絡みあっているからです。大きな課題であればあるほど、さまざまな知恵や専門家の視点が必要になってくるのです。

そこでEODCでは、「建築・工法・建材・開発」「食・生活・ローカル」「ICT・バーチャル」など多様な分野でデザイン思考を地で行くメンバーが集まったコミッティーという形がとられたのだと考えています。

「はしご」をかけられることが大事

実際、万博を起点に「どんな未来社会がありうるのか、そしてどうすればその実装ができるのか」を考えるためにEODCで議論をしてみて感じたのは、参加メンバー皆が「デザイナー(=デザイン思考を実践する実務家)」であることで、課題設定のために建設的な議論を重ねていけて、かつそれを実装していく手段も持ち合わせているということでした。つまり皆、「はしご」を持っている状態なんです。「この分野でこのはしごが使える」「このはしごではここまでは上がれる」「その先ではこの分野でこのはしごが」という具合で。

だからこそ理想を議論したけど実際到達できないという結論ではなく、そこに到達する実現可能な手段に落とし込めるのです。これがデザイナーではなく“ご意見番”だと、理想は語ることができても実現の際には必ず壁が現れます。先の話で言えば、はしごを持っていない状態。だから実際にプレイヤーが集まることが大事なんです。

このアプローチをする上で重要なのは、プレイヤーを束ねる「船頭」的な存在です。その大切な役割は、皆の意見の中で見えてきた向かうべき方向性を、ビジョンとして言語化・可視化すること。今回は...

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