グラフィック制作をルーツとする総合クリエイティブカンパニーのスパイスは2023年4月、子会社2社を統合し新体制へ移行した。新たに映像ディレクターなども加わり、モーションキャプチャ、xRなど含め、総合的な制作力を強みとして仕事の幅を広げている。
約180人のクリエイターによる総合力
1984年にグラフィック制作プロダクションとして設立されたスパイス。創業40期を迎える2023年4月には、子会社であるアドソルトとセサミの2社を統合し社員数は200名規模となった。拠点も東京・赤坂に一本化し、各分野のプロフェッショナルが集結した形だ。その背景について、デザイナー出身で営業部長を務める鳥山淳さんは「激動の時代に即した新しい広告の力を発信していく必要性を感じ、グループ各社で競い合い切磋琢磨していた部分を結集し進化させたいと考えています」と語る。
同社では2年前から拠点の集約など再編を推進してきたが、今回の経営統合により一体化した“ワンスパイス”の体制を強化する。総勢約180人のクリエイターが在籍し、グラフィックをはじめ、デジタルや3DCG、動画制作、モーションキャプチャ機器の輸入販売や専用の収録スタジオ運営、VR・ARといったxR分野の技術開発など、多岐にわたる事業を展開していく。
ニーズに合わせた生産性の高いチーム編成で、クライアントにとっても依頼しやすい体制が整った。大型の案件でも社内で完結できるため、媒体の異なるクリエイティブも全て窓口を一本化して依頼でき、クライアント側のコスト削減にも繋がる。
グラフィック制作をルーツとするスパイスだが、近年は映像を含む企画のニーズが増えてきたことから、映画業界出身者などを含めた映像ディレクター3名も入社。以前はアニメーションをベースとした映像が多かったが、実写による制作も増えてきているという。さらに、2022年12月にモーションキャプチャ事業部が本社ビルに移転したことを機に、撮影スペースを増床。2つのスタジオでの同時撮影が可能になり、そのうちひとつのスタジオはバーチャルプロダクションのデモ・撮影ができるグリーンバックのスタジオとなっている。
また、新規事業として人の顔をスキャンして即時にCG化する「3Dフェイシャルスキャン」も開始した。従来は大がかりな設備が必要だったが、専用機材によって高精細なテクスチャと3D測定を同時に行うことができるように。その場で3Dアプリケーションへ取り込み、高品質なフォトリアルCGキャラクターの制作が可能となる。
「映画やゲーム、VTuberの配信といった業務も担う中で、近年はさらなる新技術や機材を取り入れ進化を追求しています」とモーションキャプチャ事業を統括するCGプロデューサーの山田翔さんは説明する。
グラフィック仕込みの“画力”が強み
一方、強みとするグラフィックデザインの制作体制も引き続き充実している。現在はグラフィックだけで完結する案件は少なく、映像ディレクターなどとの連携も増加傾向にある。「グラフィックから派生し、Webや動画まで包括的にお願いしたいという依頼が顕著に増えているため、今回の統合は時代に即しているのでは」と、アートディレクターの三部智也さん。
他分野との連携が進んでいるのは、デジタル部門も同様だ。アートディレクターの藤代康太さんは「ゼロからの提案を求められる際、デジタルの担当者だけで案件を完結させるのは難しい。自社内での他分野との繋がりによって業務が広がるのは、クライアントから見ても利点は大きいはず」と語る。以前はキャンペーンサイトやランディングページの作成といった単発の案件が多かったが、現在はコーポレートサイトなど長期で運用が必要な案件、あるいは商品やサービスのブランディングなど上流工程からの提案を望む声が増えた。
あらゆる制作物でビジュアルが表現の核になることから、多くのデザイナーを擁するスパイスの“画力”は、どのような場面でも発揮される。「他社なら外注するような下流や支流の仕事も、社内完結できトータルパッケージで提案できるようになった。
地道な制作力の基盤があるからこそ、結果的に単発の案件に留まらずブランディングも含めた仕事に広がっています」(アートディレクター 金澤芽依さん)。現在の体制によって、分野を横断したシームレスな総合力という強みが際立つようになった。
統合により各事業部同士の横の繋がりも増えており、自由参加で相互の技術やノウハウを共有するオンライン勉強会を開くことも。「たとえばグラフィックの案件でCGの追加依頼を受けた際にも自社でできることを共有していれば、すぐさまCGの事業部と連携して提案することもできます」と三部さん。リモートワークが定着した中でも一体感を感じられる機会が増え、若手クリエイターの成長やモチベーション向上の機会としても期待されている。
「今回の統合はスパイスの40年の歴史で大きなターニングポイント。“制作といえばスパイス”という認知を広げ、総合的なクリエイティブカンパニーへと進化していけたらいいですね」(鳥山さん)。
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