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「広告」の枠を超える企業・自治体と番組コンテンツの融合

「広告」も「コンテンツ」も超えて活躍するクリエイターたちが今考えること

川村真司(Whatever)、岩崎裕介(OND°)、鈴木健太(A)

広告とコンテンツの境目が曖昧になる今、クリエイターたちが考えること、危惧していること、注目する先進事例は。その垣根を超えて活躍する3人のクリエイター──Whateverのチーフクリエイティブオフィサー 川村真司さん、OND°のディレクター 岩崎裕介さん、Aのクリエイティブディレクター/映像監督 鈴木健太さんが語る。

広告とコンテンツの境目は溶けた

──広告とコンテンツ、皆さんは昨今の流れをどう見ていますか?

川村:僕は2人とひとまわり世代が違うんですが、「ブランデッドコンテンツ」というものが確立し始めた10~15年ほど前は、まだ「広告」と「コンテンツ」というものが区別されていた時代だったんですよね。でも今は全てがブレンドされて、完全に「人が起きている時間のうちどれくらいアテンションを取れるか」の異種格闘技戦になっている。

広告もハムスターの動画も連ドラもごっちゃになって時間を取り合っているので、広告もコンテンツも関係なく、使えるものはなんでも使って届けたいメッセージを届けるのが重要、という感じがします。だから宣伝部やマーケティング部など広告会社やクライアント内での部署の境はあっても、つくり手側は「広告」というジャンルにとらわれていては危険だと思う。

鈴木:僕も同感です。自分の世代は「広告」も「コンテンツ」も混ざりきった状態で始まっているので、あまり区別したことがありませんでした。

岩崎:僕は関西電気保安協会とか80、90年代のテレビCMにぶん殴られて、あんなCMをつくりたいと「CMディレクター」になった人間です。あの頃のCMの良さは、物事の本質に迫っていたところ。言い換えれば今のように数字で効果が可視化されていないので、人の心に深く刺すには本質に迫るしかなかったんだろうなと。一方で、数字で成功・失敗が判断されてしまう今は、新たな試みをしたくても前例がないと実現できないことが多い。

そして簡単に映像がつくれるようになり表現の質も上がったので、前例のある“それっぽい”ものがたくさん出てくる。そんななんとなく雰囲気のある、なんだか良い感じの映像は「広告」というより「コンテンツ」って言われがちだけど、それでいいんだっけ?って。僕はなんだか逃げちゃいけない気がして、がんじがらめになってます(笑)。

川村:うーん、わかるなぁ。一長一短ですよね。ツールの民主化によって「国民総クリエイター」みたいな世界になり、僕は立場上それを応援してはいるんだけど。そこで生まれるコンテンツは「スナッカブル」(=おやつ感覚)なものが多くて、スナック菓子だけ24時間食べ続けて、ちゃんとしたおいしいコース料理を食べたことがない、という感じもしてしまう。いかに効率的にアテンションを取れそうなものを乱発するか、という方に走ると、クオリティの高い=心に深く刺さるものが失われてしまうので、注意深く見ないといけないよね。

岩崎:心強いです。届くより残すことを大切にしたいですね。

クリエイターの評価基準も変化すべき?

岩崎:広告とコンテンツが混ざった時代に、広告というものの質を守る手段として、クリエイター自身が適切に評価される、ということがあると思うんですけど。でも最近だとその評価基準が、バズるか賞を獲るかの二択になっている気がします。バズっていたり広告賞を獲っている事例でも、本当に結果にコミットしているのか?と疑問に感じることも。でもわかりやすい基準ではあるので、その2つの評価軸で認められるために走るクリエイターも出てきてしまう。

川村:たしかに。バズも賞も本来の出発点であるクライアントの課題への解決策になっていない場合が問題で、きちんとなっているうえでバズっている・受賞しているのは素晴らしいんですけどね。

岩崎:あくまで手段であるバズを、目的にしていないか、という話ですよね。

川村:うん。バズについては、オリエンをするクライアントサイドもメディアリテラシーを高めてきちんとした目で見られるようになることも重要ですよね。でないと単にお金の無駄遣いになってしまう。

鈴木:もしかしたら、賞ってもっと視点が多くてもいいんですかね。クライアントの課題解決にどれだけ寄与できたかを、主観ではなく徹底的に数値で測る、みたいなことで気付けることも多そう。一方で、「みうらじゅん賞」みたいな個人的な賞がもっとあってもいいのかも。

川村:個人賞いいですよね。この人には褒められたいよねとか。スティーブン・スピルバーグがひとりで選ぶ「スピルバーグ賞」、これは獲りたい!みたいな(笑)。そういえば昔、One Showのボードをやっていたときに「今年は審査員の配偶者が審査するのはどうですか?」って提案して怒られたことがありました(笑)。広告を知らない人が選ぶ方が本質的だしシビアな気がしたんですけどね。

鈴木:いいですね!(笑)。審査員のお母さんとかも面白そう。どのくらい消費者が良いと感じたか、動いたか、という。

川村:そうそう。その先で、どれだけ世の中の空気を変えられたか、カルチャーに寄与できたのか、というのもありますよね。これだけ広告もコンテンツも関係なく戦うようになった今、「広告」賞にもそんな視点があってもいいのかもしれない。



「ブランデッドプロダクト」という手法

──そんな中で、皆さんが最近気になる事例は何ですか?

岩崎:スズケン(鈴木さん)たちがやってた「ポカリスエット」(「でも君が見えた」篇)は、コンテンツのようなつくりのCMだったけど、今日のここまでの議論を吹っ飛ばすくらいのクオリティでした(笑)。熱量が伝わるし、ちゃんとブランドに落ちてるし。僕がディレクターとして煩悶していた時期にこれを見たのもあって、直感的に人が圧倒されるような突き抜けたものが...

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