クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回はイラストレーターとして活躍するnaohigaさんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『るきさん』
高野文子(著)
(筑摩書房)
20代の会社員時代、仕事中にふと気付くと、自分のアパートの近所に思いを馳せている瞬間がありました。私が建物の中でPCとにらめっこをしているとき、あの小道にはきっと明るく静かで穏やかな時間が流れているんだろうな……と思うと、日常の延長にあるはずなのに実現不可能な小さい夢のようで、切ない気持ちになったものです。まだまだ仕事に慣れず自信も力もなかった私の、ちょっとした現実逃避だったのかもしれません。
そんなとき、いつもイメージの中を軽やかに通り過ぎていくのが、るきさんでした。この絵のタッチのごとくさらりと軽やかな女性・るきさんは、在宅でお医者の保険計算の仕事をしています。颯爽と仕事を終わらせ、切手を買いに行ったり図書館に行ったり……なんと自分らしく時間を過ごし風通しよく生きていることか。あの頃の私は、将来自分がイラストレーターになれることも知らず、周りの大人たちに叱られたりたまに褒められたりしながら何とか社会人というものをやっていました。
もう恐る恐る半休申請しなくても、平日の昼間に当たり前みたいな顔でスタスタ近所を歩いていい私。『るきさん』を読むと、あの頃の私と現在の私とがふっとすれ違うような気がするのです。