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明るいCMプランナーの会

【座談会】CMプランナーだから生み出せる「企画」とは?

CMプランナー 福里真一さんを中心に、第一線で活躍するCMプランナーが集まる「哀しきCMプランナーの会」。2019年から毎年年末に開催し、22年で4回目を迎えました。なんと今回から「明るいCMプランナーの会」と改名。電通の杉井すみれさんをゲストに、8人で4つのテーマについて話し合いました。

なぜ日清食品の広告には勢いを感じるのか?

福里:毎年恒例となった「哀しきCMプランナーの会」ですが、麻生哲朗さんや福部明浩さんからCMプランナーという職種に誤解を招くとアドバイスがありまして、今回からあっさり名前を変えました。「明るいCMプランナー」として、この仕事の魅力をポジティブに語っていきましょう。ゲストには、KDDI「ポイント貯めすぎ!貯杉先生」で2022年度TCC新人賞を受賞された、杉井すみれさんをお招きしています。

杉井:5年目のCMプランナー 杉井です。今日はよろしくお願いします!

福里:杉井さんはご自身の肩書に「CMプランナー」と付けられていて。最近、若手でCMプランナーと書く人が少なくなってきたような気がしていたので、勝手に親近感を感じていました。さて、今回も4つのトークテーマを用意しました。1つ目は「新広告御三家~大塚製薬、日清食品、マクドナルド~のCMは、なぜ勢いがあるのか?」。もちろん他にもすばらしい広告をつくっている企業はありますが、勝手ながら今日はこの3社を「新広告御三家」とさせていただきました。3社の広告に勢いがある理由を、CMプランナー目線で語っていきましょう。まずは日清食品を担当している栗田(雅俊)さん、どうですか?

栗田:日清食品は歴史的にもずっと勢いがありましたが、ある時点でさらにギアが上がった印象ですね。

福里:そうですよね。私は前から「カレーメシ」(2014年発売)のCMがきっかけだと見ているんです。カレーメシのCMでは、意味不明だけど面白い、いわばナンセンスギャグ方向に振り切った印象を受けました。それを今はひとつのブランドだけではなく、企業体全体の方法論として打ち出しているイメージがありますね。

栗田:多くの企業では商品ごとに広告の世界観を変えていますが、日清食品はブランドを横断して統一されたトンマナを感じますよね。またテレビCMとWeb施策を分けるのではなく、CM自体がそのままネットで話題になるような表現も特徴的です。

福里:どうやったらCMがネットでも話題になるんでしょう?

栗田:単純に面白い、を狂気のレベルまで突き詰める、というのはあると思います。なぜかわからないけど笑ってしまうような直感的な面白さを大事にする。あと実は商品中心なんですよね。CMというと「まず興味を引いて最後でいかに商品に着地させるか」と考えがちですが、日清食品のCMは、商品で始まり商品で終わるのになぜか面白い。企業のスタンスが潔いからだと思います。面白さ、わかりやすさ、企業姿勢が世の中と合っているのかもしれません。

吉兼:「カレーメシ」のCMも、カオスな要素はありつつ無駄なセリフがあまりないですよね。「信じて混ぜれば本格カレー」篇(2019)なども、30秒間「信じて混ぜればカレーができあがる」というストレートな商品の説明で構成されています。

杉井:私は「カップヌードル」と「日清焼そばU.F.O.」を鈴木晋太郎さん(電通)の下で担当しています。中毒性のある映像をつくろうとなったとき、絵はもちろんですが、音構成に特にこだわって制作している気がします。曲の歌詞もとにかく商品訴求中心で頭から離れなくなるものを、クライアントさん、チームみんなで考えます。あと特徴的だと思ったのはコピーです。「寒い日はとくにうまい」(カップヌードル)や「旨み6:辛さ4」(カップヌードル 辛麺)など、ちょっと変だけどキャッチーで、違和感がある言葉が企画の真ん中にある気がします。

栗田:商品を売ることにすごく真面目に向き合われていて、コピーは売りにつながるのか、という視点が強いですね。必然的にオリエンに近いものになる気がします。「カップヌードル」の「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」(2017年)の頃までは情緒に近いコピーも多かったのが、その少し後からよりマーケティング的な表現になっていった印象です。

福里:ただ商品を褒めるだけでなく、そこにちょっと本音を入れていますよね。広告ではあまり言わないようなことを入れ込んでいて。吉兼(啓介)さんが担当した「ラ王」の「お店に勝てないけど、おうちではうまい。」(2019年)にもそれを感じました。

吉兼:それもクライアントからヒントをいただいて生まれた言葉ですね。

神田:僕が以前担当していた際は「企画になる種がほしい」と言われて。だから企画になる前のような、何となく面白いネタを探していましたね。

福里:なるほど、わかりやすい言葉ですね。企画者が頭で考えるのではなく、既にある、しかも間違いなく流行りそうなネタを求めていると。

栗田:そうなると、広告クリエイティブの視点からはCMプランナーの「企画」とは何か、という議論も生まれてきますよね。2022年のACCの審査の際によく議論になったのが、「新規性」。既に流行っているものを取り入れることは、CMプランナーが新しいことに挑戦していない、ということになるのか、と。一方で、既存のものに何かを加えることが時代を少しずつ進めるという考えもあり、Webではわりと一般化している。そういう文化にアジャストしていくべきだ、という意見もある。

福里:なるほど。どっちもありだし、両方の考えの人がいていいですよね。

栗田:そうですね。新しい動きをつくっているということに違いはないとも思います。

福里:日清食品の話に戻ると、企業体として表現の方向性を定めて貫いていることで、全体として“若い世代に向いた企業”に見えているわけですから、広告としては大成功ですよね。

マクドナルドと大塚製薬の共通点

福里:続いて、マクドナルドはどうですか?

大石:僕は2020年からマクドナルドを担当させていただいているのですが、CMOのズナイデン(房子)さんという圧倒的にカリスマ性のあるトップがいて、その方がCMのチカラを信じている。クリエイティブなCMがすごく好き。というのが今のマクドナルドの広告の勢いをつくっていると思います。

福里:おー、なるほど。

大石:ズナイデンさんは、完成した映像を見て「これ、テレビで60秒枠で流したい!」と言ってくださるんです。これってCMプランナーにとって、すごく嬉しいことで。いいCMができたら、いい枠で、世の中に披露したい。そんなエンターテイナー精神のある方が宣伝のトップにいることが、すごく強いのではないかと感じました。

福里:本当にそうですよね。私もマクドナルドの「夜マック店長」シリーズを担当していて思うのは、イエスもノーもその人が決めるという明確な決定権者がいる仕事のやりやすさ、気持ちよさですね。鈴木(智也)さんは外部から見てどうですか?

鈴木:今の流れでいうと、大塚製薬にも宣伝部の上野(隆信)さんと、それぞれ強力なキーマンがいますよね。お二方とも常にご自身のアンテナを張られていて、しっかり広告の力を信じているなと。

大石:日清食品は、社長の安藤(徳隆)さんがトップでクリエイティブ全体を主導されていますよね。リーダーの広告への姿勢が宣伝部全体に伝播している気がします。

福里:一方で3人とも進め方は違いますよね。大塚製薬は「今年のカロリーメイトを考えてください」と、全部任せると聞きます。オリエンも無く、商品のとらえ方など押さえるべきポイントさえ間違っていなければあとはつくり手に任せると。それぞれ関わり方は違うけど、明確にひとりがジャッジするという共通点がありますね。

大石:そうですね。あと、案を決めるときにズナイデンさんは「セオリーはこっちの案なんだけど、なんだか私はこっちが好き!」という判断をされることがあって、最後は自分の直感をすごく大切にされていることも素敵だなと思います。

福里:もうひとつ、マクドナルドで言いたいのは、我々つくり手を必ず一人ひとり個人名で呼んでくれること。電通さんとか博報堂さんとか、会社名でしか呼んでくれない広告主も多いですからね。では、このくだりを栗田さん、まとめてもらえますか。

栗田:無茶振りですね(笑)。企業がある種の擬人化をされて消費者と個人対個人のようなコミュニケーションができると、より効果が出やすい、ということはありそうです。決裁者の数が少ないほどその個性がより強く出やすいのかなと思います。

変化を続けるなかじましんやさんとCMプランナーが気になるディレクター

福里:続いて、2つ目のテーマは「CMディレクター なかじましんやさんについて」です。しんやさんは東北新社に入社して40年目の2022年、いちディレクターとして「OND°」に参加され、事実上フリーになられました。これまでもずっと活躍されていましたが、最近は特に目立つCMのディレクションをされていますね。

鈴木:2022年は「Airワーク 採用管理」(リクルート)、「違法だよ!あげるくん」シリーズ(日本民間放送連盟)などのCMを監督されました。以前ご本人も「新しい領域に入ることが好き」だとおっしゃっていましたが、長いキャリアがあるのに良い意味でまだ型が定まっていない感じがするというか。アニメ表現、歌ものなど、どんどん新たなジャンルを吸収しようとされているのが素敵だなと思います。

福里:たしかに、大御所なのに定まっていないですよね。

鈴木:そうですよね。それと、ものづくりの過程で、言葉で企画の面白さを伝える力って結構大事だと思うんですが、しんやさんはそれに長けていますよね。しんやさんが監督したCMだと、撮影のあとの編集の段階でクライアントに説明するのは基本しんやさんなんです。普通は広告会社のクリエイティブディレクターやプランナーの役割だと思うんですけど。それが“しんや劇場”みたいで、自分もその伝える力を磨いていきたいなと思っています。

福里:なかなか真似しようと思ってできるものじゃないですよね。私もしんやさん、変わってきているなと思っていました。初期はCGなども活用した強い画づくりが特徴でしたが、途中で、おそらく本木雅弘さん出演のサントリーの「伊右衛門」シリーズのあたりから、人間の感情を描くことが中心になってきた。さらに最近はまた変わって、リアルというよりCMならではのセリフ劇のようなCMが増えましたよね。それら3つの時代に磨いた技術を全て持っているわけですから、しんやさんに頼むと強いCMができるのも当然かもしれませんね。

栗田:僕はしんやさんが担当されたCMの中で、特に資生堂の企業広告「新しい私になって」篇(2006年)が好きなのですが、しんやさんって音構成がすごい人だと思っています。前にご本人に「しんやさんがつくるCMはマイナーな設定でもマイナーな感じが全然しません。なぜメジャーな感じがするんですか?」と聞いたら、「音の構成に気を配っている。良くないCMは音が緩い、実は一番こだわっているのは音」だとおっしゃっていました。「違法だよ!あげるくん」も、マイナーになってもおかしくない設定なのに、あの犬の話し方など音構成に、どこかメジャー感があります。

福里:たしかに。しんやさんのCMの音は、リアリティの追求ではなく、どうすれば強く伝わるか、という観点からつくっていきますよね。

神田:以前に一度ご一緒させていただいた際に感じたのは、しんやさんは企画の中の芯の太いところを見つけるのがプランニングした本人よりもうまい、ということです。僕の企画はものすごくニッチで自分でも困るほどなんですが、それをしんやさんが面白がって監督を担当してくださって。企画のニッチな空気感は残しながらもメジャーでキャッチーな感じに仕立てていただきました。企画自体の芯の太さをうまく膨張させてメジャーに仕立てていく演出力は唯一無二ですね。

福里:CMという舞台での、見ている人の印象に残る言い方や表情の切り取り方がうまいですよね。

神田:CMから逸脱しないところで演出されますよね。演出家だと映画的な演出とかを取り入れたりしがちですが、絶対にCM然とした中で完結させるのが、強い表現を生むコツなんだろうなと。

福里:皆さんはしんやさん以外で気になるディレクターはいますか?

吉兼:泉田(岳)さん(TOKYO)、平田(大輔)さん(OND°)の名前が挙がることが多いです。お2人ともご一緒したことがあって、泉田さんは「劇団ドラマティックゆうや」で舞台演劇の活動をされていて、会話ものや雰囲気づくりに長けている方。平田さんは粘着質な、ちょっと湿った感じが上手だなと(笑)。

大石:僕は箱田優子さん(CluB_A)です。CMの短い尺の中で、リアリティのあるドラマをつくるのがものすごく上手で。セリフづくりや、役者の演技の引き出し方、編集。全ての点で、元の企画からジャンプアップしてくださるので、いつもビックリしています。あと、完成するCMだけでなく、箱田監督ご本人も、すごくカッコいいです。

山本:僕は「分福」のディレクターの広瀬奈々子さんと今中康平さんです。最近、とある仕事でドキュメンタリーCMをつくることになって一緒に仕事をしているんですが、勉強になります。最初は30秒のドキュメンタリーは難しいだろうなと思っていたんですが、お二人はCMの撮り方が全く違っていて。30秒を撮るために10日間ほど現場に足を運んで、ずっとカメラを回して。撮影した中からこれしかないというほどに絞っていくんです。できたものも凄かったですね。

福里:つい映画系の方だと30秒にすると弱くなったりしないかと思ってしまうんですけど、そんなことはないですか?

山本:膨大に撮った中から...

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