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グッドデザイン賞 2022レポート

日常的な行為が子どもへの寄付に 福祉の垣根を溶かす魔法のデザイン

まほうのだがしや チロル堂

「2022年度グッドデザイン賞」受賞対象5715作品の中から大賞に選出された、「まほうのだがしやチロル堂」。店内通貨を介し「チロる」(寄付する)仕組みで寄付に対する大人の意識をリデザインし、こども食堂や地域貢献の在り方を変えた。

ランチにやってきた生駒市役所の職員や、スタッフらに囲まれる吉田田タカシさん(前列中央)。

福祉という目的は看板に出さない

孤独や貧困の環境にある子どもたちを救う目的で運営される「こども食堂」。その数は全国で6000を超えるとされるが、運営に必要な資金と人手の確保、要支援層へのアプローチ方法などに苦労し、継続困難に陥るケースも少なくない。

奈良県生駒市の「チロル堂」は、コロナ禍で閉鎖を余儀なくされたこども食堂に代わる地域の居場所として、2021年8月にオープンした。集まった子どもたちに食事を提供しているが、掲げる看板はあくまでも「駄菓子屋」。入口に、子ども(18歳以下)だけが100円で回せる“ガチャガチャ”があり、店内で100円分の買い物ができる「チロル札」1枚~3枚に化ける。しかも、大阪の有名店とコラボしたカレーや牛すじ丼、ジュースやケーキも、子どもならチロル札各1枚で楽しめる。

いずれも大人たちの飲食代の一部を寄付に充てることで実現した仕組みだ。これらに貢献する行動自体が「チロる」というキャッチーな動詞として語られる。「誰もが来店しやすい駄菓子屋として地域に開くことで、本当に支援を必要とする子どもたちにリーチできればと考えました。それと同時に、寄付文化になじみの少ない日本の大人たちに、『チロる』ことの良さを体験してもらいたかったんです」と発起人の一人である吉田田タカシさんは語る。

芸術運動の“ダダイズム”にちなんで「吉田田(よしだだ)」と名乗るダダさんは、自然の多い環境で子育てをしたいと2012年に大阪から生駒に転居。そして、小紫雅史副市長(現市長)と同郷だとわかって意気投合し、長く福祉事業に携わってきた石田慶子さん(一般社団法人無限)を紹介された。さらにデザイナーの坂本大祐さん(合同会社オフィスキャンプ)らとも出会い、地域への理解と愛着を深めていった。

「100年前は観光地として、50年前はニュータウンとして栄えた歴史を知り、だから見知らぬ人や異質のものを歓迎してくれるのかと腑に落ちました。僕が主宰するアートスクール『アトリエe.f.t.』は、生きるために必要な学びを作品づくりを通して子どもたち自身がつかみとるというコンセプトで、伝統的な絵画教室とはまるで違う。なのにアレルギー反応を見せる人が少なかったんです。子どもたちがクリエイティブを学ぶことで...

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