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企業ブランドを体感 新たな空間体験の演出とつくり方

楽器を売る場から「新たな自分と出会う場」へ

ヤマハ/ヤマハ銀座店「ブランド体験エリア」

さまざまなブランドの旗艦店が立ち並ぶ銀座の中央通りに面した「ヤマハ銀座店」。2020年10月、その1階と2階が「ブランド体験エリア」にリニューアルされた。カフェスタンドやデザイン展示、さらにはピアノ演奏の様子をプロ並みに撮影できるコーナーまで。ヤマハが見据える、新たな「店舗」の役割とは。

「ヤマハ銀座店」外観。

店舗の役割が変わってきた

「ヤマハ銀座店」は地下2階、地上12階建て。地下1階と3階から5階では楽器や楽譜を販売する。6階から9階はコンサートサロンとホールで、10階から12階は音楽教室。地下2階にはスタジオを有する。20年のリニューアル以前は、1階と2階では電子ピアノやCDなどを販売していた。

その販売フロアをリニューアルすることになった背景には、ECの台頭がある。「コロナ禍以前からヤマハの小売店は、“商品を確認するための場”になってきました。お客さまは事前にネットで購入したい商品に目星をつけて来店され、店頭でもスマホを見ながら自身で吟味し、場合によってはECで購入もする。そんな中で、店舗は商品を売るための場所ではなく、ヤマハというブランドを通じて音楽に、さらに音楽を通じて新しい自分に出会える場として打ち出すのが、今の時代に合っているのではと考えました」と振り返るのは、ヤマハミュージックリテイリングに所属し、ヤマハ銀座店の館長も務める福澤守さん。

また楽器業界でも、機能的価値訴求から情緒的価値訴求への転換が必要だと話す。「機能面でコモディティ化が進むスマホやテレビなどの家電は、現在では情緒訴求がメインになっています。当社も楽器のクオリティには絶対の自信を持ちつつも、まずは『ヤマハって良いね』というポジティブな感情を抱いていただくことから始め、その先で楽器や音楽に興味を持った際にヤマハを想起していただく、ということから取り組んでいくべきだと思ったのです」(福澤さん)。

そこで1階や2階を、商品を販売する場から「ブランド体験エリア」へと刷新。「新しい自分と出会える」というテーマを掲げた。

銀座の街と店内を自然とつなぐデザイン

どのようにブランドを体験できるのか。「ヤマハのフィロソフィーで目指す顧客体験には、『愉しさ』『美しさ』『確信』『発見』の4つがあります。1階では『美しさ』を、2階では『発見』を特に意識しています。ここでの『美しさ』とは、何かに興味を持ったりチャレンジしてみようと感じたりという、心の小さな動きのこと。『発見』はそこからもう少し踏み込み、音楽を通じて新たな出会いや気付きが起きること、と考えています」と、ヤマハデザイン研究所の二村花央さんは説明する。

詳しいコンテンツを見ていこう。1階エントランスに入ってすぐにあるのは、ヤマハがデザインしたテーブル型の鍵盤楽器「key between people」。手元が目の前の大きなスクリーンに映し出され、ピアノを弾く人と聴く人が一体となって音楽を楽しむことができる。奥に行くとカフェスタンドと、そこでの購入品を楽しめる「music table」が。music tableにはカップを置くとセンサーが反応し、季節ごとの映像が投影され、それに連動した音楽が奏でられる。

「たとえばスポーツをしない人がスポーツ用品店に入ることはないように、楽器を演奏する人でなければヤマハの店舗に...

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