2022年11月に福岡市内で開催された第21回「アジア獣医師会連合大会」で、日本全薬工業(ゼノアック)はラジオブース「RADIO ZENOAQ!」を出展。Well-beingを考える番組を公開配信した。企画制作を手がけたブランディングエージェンシーのMEETINGと、ゲストの山崎亮さんとともにその狙いを語る。
業界内外のゲストと7本の番組配信
日本全薬工業(ゼノアック)は1946年に創業し、福島県郡山市に本社を置く動物用医薬品メーカーだ。家畜向けの固形飼料「鉱塩」や、飼育動物向け製品の犬のアトピー性皮膚炎に対する減感作療法薬「アレルミューンHDM」などが代表的な製品で、主に獣医師向けに販売している。
今回、ゼノアックが協賛・出展した「アジア獣医師会連合大会」は国内外の獣医師や研究者ら約2000人が参加。21回目となる今回は11月11日から3日間、福岡で開かれた。学会のテーマは「アジアからのワンヘルスアプローチ」で、動物と人の健康をともに考えようという共通指針が掲げられていた。そこから「Well-being(幸福)」という視点を見出した。
その出展ブースの企画として今回、同社が初めて取り組んだのがラジオ番組形式の「RADIO ZENOAQ!」。3日間の会期中に現地から公開放送の形で「Well-being」について考えるトーク番組を7本実施し、同時にYouTubeでも配信した。
この番組のゲストとして参加したのは、獣医師の伊從(いより)慶太さん(VDT 最高技術責任者)、佐野忠士さん(酪農学園大学)、三好志朗さん(アニマルプロダクションマネージメント 代表)ら専門家やゼノアックの社員のほか、編集者の佐渡島庸平さん(コルク 代表取締役)、宗教家の松山大耕さん(妙心寺退蔵院 副住職)、コミュニティデザイナーの山崎亮さん(studio-L 代表取締役)といった業界や領域を超えた有識者たちだ。
「境界なき共創」を実現する企画に
今回はラジオ番組などを通じて社会全体はもちろん、動物や繋がりを持つ全ての人たちのWell-beingに貢献するために議論する場となった。「製品を展示してゼノアックが考えるWell-beingを伝えるだけでなく、業界や立場によって考えが異なるWell-beingについて議論する場をつくりたいと考えました。ゼノアックでは経営理念として『私たちは、動物の価値を高め、つながる全ての人々の幸福に貢献します。』と掲げています。これはまさにWell-beingの追求であり、学会のテーマにも合致すると考えました」。そう語るのは、ゼノアック 経営企画部 シニアコーポレートブランドマネージャーの小川雅史さんだ。
従来の学会では製品だけを展示していたため、今回のように企業ブランディングを主体とする出展は初のこと。同様に出展する他社の取り組みを含め、珍しいケースだ。モノではなく考え方を展示する“ブランディングブース”となった背景には、「製品だけでなく企業としての認知をより高めていきたい」というゼノアックの思いがあった。
一方、同社は2018年に3代目社長となった福井寿一氏による第三世代経営スタートを機に、経営理念やタグライン、基本原則を刷新したという動きもある。それらのブランディング戦略にも関わってきたのが今回のブース企画を手がけたブランディングエージェンシーのMEETING。代表の三村恵三さん、執行役員/クリエイティブディレクターの木下博司さんによると、ゼノアックが掲げる基本原則の中にある一項目「境界なき共創」をまさに実践する形となった。
「“学会なのにラジオ番組!?”という意外性と、具体的にゼノアックが考えているWell-beingを感じられる納得感をもたらす空間に仕上げることが重要でした」と木下さん。そのため現地では遠目で見てもラジオブースだとわかる「ON AIR」の赤いサインを設置し、透明パネルで仕切ったブースの中にDJとゲストが入り配信を実施した。ブースの上部にはゼノアックの企業ロゴを掲げ、ラジオブースを思わせるスピーカーのような風合いの装飾を加えている。
ゲストは知名度だけでなく、「I」「We」「Society」という異なる立場からの知見を発信できる人たちに依頼した。「それぞれの立場からのWell-beingを考えるにあたり、人によって解釈や考え方も異なるため、宗教家の松山さん(I)と編集者の佐渡島さん(We)、コミュニティデザインが専門の山崎さん(Society)という組み合わせで、役割を担っていただきました」(三村さん)。
コミュニティビジネスなど新たな事業へ
今回配信したラジオ番組のうち「コミュニティとWell-being」をテーマに話した山崎さんはトークの中でコミュニティデザインについて解説したほか、「動物を介したコミュニケーションはコミュニティにおいて価値がある」などと述べている。
「僕は公共空間のランドスケープ(景観)デザインが専門なので、植物と人間の関係性を考えたことはあったのですが、動物との関わりを考える機会は初めてでした。何より今回参加して凄いなと思ったのが、学会の出展ブースから公開生配信してコンテンツ化するというアイデア。たとえば体重計メーカーのタニタが食堂を始めたように、動物用医薬品メーカーがWell-beingについて考えようと働きかける場をつくるのは素晴らしいなと思いました」(山崎さん)。
小川さんが山崎さんの番組内のトークを聞き、最も感動したのが「食とコミュニティの繋がり」に関する話題だ。「“食べ物は口から胃の中に入るので、生産者との信頼関係がなければ安心して食することはできない。信頼の連鎖によって、食べ物が無事に届けられている”というのが山崎さんのお話でした。つまり、ゼノアックが畜産動物の健康を守ることは人々が動物の命をいただく行為と繋がっていて、社会にどのようにWell-beingを循環させているのかを考えさせられました」(小川さん)。
現地ではラジオブースという造形の意外性から目に留める人も多く、反響は上々だ。さまざまな立場でWell-beingを語る出演者の姿を目の当たりにして、「自分もこういう場で語ってみたい」と申し出る獣医師もいたほど。社内外からも好評で、同じく出展していた他社からも従来のイメージを覆すような展示企画に、驚きと感嘆の声が聞かれたという。
「今回はあくまで対話をするための場づくりでしたが、ここで生まれたアイデアや提案を実際に行動に移さなければもったいない。既に一部は動き出しており、メーカーから“モノ”だけでなく“コト”を発信していく可能性を感じました。今後もWell-beingの考えのもと、コミュニティビジネスなど、メーカーとしての役割を超えた新たな事業に取り組んでいきたいです」(小川さん)。
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