xRやメタバースなどへの注目が集まる中、広告領域でも新たなテクノロジー活用の可能性が広がっている。CGなどによるリアルタイム表現のR&Dに多数取り組んできた岡田太一さんが解説する。

スマートフォンを使用したARのイメージ。
©marcbruxelle/123RF.COM
「AR」「MR」言葉の定義と歴史
前回に引き続き、言葉の定義について。まず「AR」については、概念の話とマーケティングワードとしての話があります。ARは「Augmented Reality」の略であり、拡張現実と訳されます。一般にはNiantic社の「Ingress」というスマホゲームで耳目を集め、「ポケモンGO」で世間の認知を得ました。そのため本来の現実を拡張する、という意味よりも、スマホを使った視覚拡張技術を指すマーケティングワードとして認知されています。クリエイティブの現場でも、この意味でARという言葉を使う場合が多いのではないでしょうか。
概念としてのARはVRと同じく昔からあるもので、古くは1968年にアメリカのコンピュータ科学者であるIvan Sutherland(アイバン・サザランド)氏が開発した「The Sword of Damocles」というデバイスがありました。これはハーフミラーを使ってブラウン管の映像を人間の視界に合成するHMD型のARデバイスで、現在まで続く各種HMDの先祖ともいえます。
このデバイスは、元々は「実質的な現実」を目指したVRの研究の一要素技術でした。それがHMD型デバイスの形をしていたのは、当時の技術的制約により全ての感覚を再現することが難しかったためですが、ここで視覚に限定した研究を行なったことで、ARは大元のVRとは一歩離れた歩みを始めます。結果、軍事、産業利用をはじめ、応用研究が活発に行われました。