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デザインの見方

時代感と映画の美意識が共存した小道具のデザイン

大島依提亜

『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社、2020)

私はグラフィックデザイナーという肩書で仕事をしていますが、元々は映画監督を目指していました。大学では映画制作を学べることを理由にデザイン学科を専攻。結果的に映画監督になる夢を諦め、自分のスキルを活かせるデザイナーになったのですが、どうせだったら好きな映画に関わりたいと思い、主に映画関連の仕事をするようになりました。そんな経緯でデザイナーになったので、私が影響を受けたものは映画にまつわる表現や制作の創意工夫などの数々。そのひとつが、映画の小道具のデザインです。

小道具のデザインを初めて意識したのは、幼い頃に観たスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968)だったと思います。今でもはっきり覚えているのが、主人公がパンアメリカン航空(パンナム)の宇宙船の中で食べる「機内食のパッケージデザイン」。ほんの数秒映っただけなのに、目がくぎ付けになるほどインパクトがありました。今あらためて観ると、そのデザインに情報が詰まっていることに驚きます。60年代らしさがあり、一方で未来的でもある。時代感と映画の美意識が見事に共存したデザインで、リアリティと創作のバランスが絶妙です。

その他、プロップ(小道具)デザイナーのアニー・アトキンズさんの作品も見事。ウェス・アンダーソン監督やスティーブン・スピルバーグ監督などの映画の小道具を手がけているのですが、どのデザインも一見目立たないけれど、絶大な存在感がある。小道具のデザインの質の高さが...

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