ミズノは3月、同社として初めて開発した視覚障害者向けの白杖「ミズノケーンST」を発売した。共に取り組んだのは、インクルーシブデザインなどの開発実績を持つ一般社団法人「PLAYERS」のタキザワケイタさんら。障害者へのインタビューや調査を重ねるなど、共創によって生まれたプロセスを探る。

ミズノが開発した白杖「ミズノケーンST」。
「白杖を持ちたくない」という本音
ミズノが2022年3月に発売した白杖「ミズノケーンST」は、同社のゴルフシャフトなどで用いられるカーボン設計・加工技術を応用し開発されたものだ。「技術力や製造のノウハウを活かして、スポーツ以外の領域を開拓していこうとする流れが社内にありました」と説明するのは、同社営業統括本部の長谷川知也さん。
これまでスポーツ用の義足などは製造してきたが、視覚障害者向けの商品開発はミズノにとって初のこと。今回、白杖に着目したのは一般社団法人「PLAYERS」を率いるデザイナー、タキザワケイタさんとの出会いがきっかけだ。PLAYERSはインクルーシブデザインなどによる社会課題解決に取り組んでおり、タキザワさんがミズノでプロジェクトデザインに関する講演をした縁で相談を持ちかけた。
PLAYERSには視覚障害があるメンバーが所属し、これまで日本ブラインドサッカー協会などとの協業実績もあった。「ゴルフシャフトやバットなどの技術を活かせそうだということで、初期のディスカッションの段階から白杖の開発に関するアイデアが出てきたんです」とタキザワさん。
両者がまず取り組んだのが、視覚障害の当事者へのオンラインインタビュー(#01)。「2020年夏から冬にかけて、毎週木曜の夕方を中心にZoomでインタビューを実施しました。当事者だけでなく、歩行訓練士やガイドヘルパーといった支援する立場の方も含めて、累計で約40人の話を聞いています」(タキザワさん)。
ここで見えてきたのが、視覚障害者にとっての白杖は「持ちたくない」「隠したい」もの、というインサイトだ。自らも弱視で、エンジニアとしてPLAYERSに参画する中川テルヒロさんはその心理をこう表現する。「杖を見られたくない。でも見られることで助けてもらいたい、という両方の気持ちがある。他者に見られているんだろうなという感覚があっても、いざ助けてほしいときは助けてもらえないことも。自意識だけがどんどん過剰になり、ストレスになってしまうんです」。
そこで「持って出かけたくなる」という気持ちを醸成するため、スポーツ用品メーカーならではの“軽くて振りやすい”機能性やデザインを追求しようという方向性を見出した。2020年12月にはミズノの社内コンテストで長谷川さんが提案し、新規事業として採用。2021年に入り早速、製品のプロトタイプ開発に取りかかった。
体験会で見えた機能と安心感のバランス
並行して実施したのが、視覚障害者6人とミズノ社内の12人、PLAYERSの5人が対話するワークショップ(#02)。「ミズノからは研究開発・商品企画・マーケティング・広報など、今後の製品化にあたりキーパーソンとなる人たちが出席しました。視覚障害者の皆さんに質問しながら、白杖の良い面・悪い面や理想とする...