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エンゲージメントとファンの熱量を高める ブランド広告の表現

「うわべの愛は確実にバレる」ファンの気持ちを宿す憑依型クリエイターたち

市川 葵(カヤック)、大澤創太(CHOCOLATE)、佐内 歩(トライバルメディアハウス)、長谷川輝波(電通)

ファンの間で好意的に受け取られ、拡散されて話題になり、ブランドの愛着にもつながる──そんな企画はどのようにして生まれているのだろう。話を聞いたのは、ファンの側に立つのみならず、その気持ちを自身に憑依させ、時には実際にファンになり企画を立てるという4人のクリエイターたち。アイドルやアーティスト、“2.5次元”舞台で活躍する俳優などを起用したさまざまな事例とともに話してもらった。

2021年10月の「TOKYO IDOL FESTIVAL」開催時に最寄り駅である東京テレポート駅に掲出したSTU48のポスター「アイドルになってよかったと、言える未来にしよう。」「アイドルが好きでよかったと、言える未来にしよう。」。SNSでもステートメントを発信した。

「推す」気持ちをどう理解する?

佐内:皆さんはファンの方の気持ちを理解するために何をしていますか?僕はSNSやYouTube、SHOWROOMなどのコメント欄を観察して、ファンがどういうことを話しているかチェックしています。前職がレコード会社だったんですが、その時にはライブ会場でファンが話していることをよく聞いておけ、と教わりましたね。僕自身がAKB48のオタクだったことからオタクの友だちも多いので、色々なアイドル現場の話を聞くのも参考になります。

大澤:僕も同じくオタクで地下アイドルの現場によく行くんですけど、たしかにファンが話していることにはめちゃくちゃヒントがあります。他には、ファンの方々のTwitterの「いいね」欄に結構ヒントがあって。「何を面白いと思っているか」をチェックするんです。ちょっと変態性がありますけど(笑)。アーティストの戦略を考えるときも、アーティスト本人のいいね欄を見ると好きなクリエイティブなどが意外とわかったり、フォローしている人を見るとこうなりたいんだな、という姿が見えてきたりします。

市川:私もひたすらインプットするところからですね。そのファンと同じものを見て、同じことを感じて発信していくことを大切にしています。既存のファンを抱えているIPやタレントが関わる広告をつくるときは、企画の広がりがある程度想定できるのでありがたい反面、これほどシビアな目を持つユーザー層は他にいないと思うので。常に試されている気持ちでいようと戒めています。取り繕ったうわべの愛は確実にバレるので、自分もいかにファンと同じ温度感に近付けるか、自分の感覚で腑に落ちるところまでファンの視点をインストールすることを心がけています。

長谷川:私も最初にファンを自分の中に憑依させようとするのですが、影響を受けやすい人間なので、気付いた頃にはファンになっています(笑)。そのままファンクラブに入ることもありますし、オタク友だちができることもあります。また、その企画を考えている最中は基本そのアーティスト情報に常に触れられるような環境づくりをします。音楽もそのアーティストの曲しか聞かず、Instagramのハッシュタグも自分が元々好きなアイドルのハッシュタグは一旦アンフォローして、仕事しているアーティストさん関連のハッシュタグだけをフォローしたりしますね。あと情報源として一番頼っているのは、YouTubeです。動画内やコメント欄でファンの間で使われている専門用語や共通言語を探すのに便利です。

佐内:YouTubeだと、コメント自体にいいねができるのが面白いですよね。

長谷川:たしかに。こういうコメントに共感するんだっていうのが見えてきて勉強になりますね。

ファンからの共感を得る企画の数々

佐内:ファンの気持ちを理解して共感を促す、という意味では最近の仕事だと瀬戸内のグループ「STU48」のポスターを、アイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」開催中に、会場最寄りの東京テレポート駅に掲出しました。僕はSTU48の仕事を長くやらせてもらっているんですが、アイドルは握手会で交流したり声を出して応援したりするのが、楽しいポイントのひとつです。

でもコロナで今までのようにイベントができず、きっと多くのファン、そしてアイドル自身も同じことでモヤっとしているだろうな、と思っていたんです。だからファン側として「アイドルが好きでよかったと、言える未来にしよう。」、アイドル側として「アイドルになってよかったと、言える未来にしよう。」という、両方の気持ちに寄り添ったメッセージを発信しました。そうしたらSTU48以外のアイドルファンにも共感していただき、ああ、皆が同じ気持ちだったんだな、と。これは僕がオタクのプランナーだから出せたアイデアかなと思います。

長谷川:企業とアイドルやアーティストの間に「意外な組み合わせ」や「隠れた共通点」があると、ファンの人たちを熱狂させる広告キャンペーンをつくりやすいです。たとえば、グループ名と商品名がちょっと似ていたり、メンバー自身がラジオでその商品のファンであると話した隠れエピソードがあったり。一般の人には全くわからないけどファンの人からすると「この企業と組んだのはこういう裏話があったのか」と、推察・考察できるポイントがある方が、単なる広告ではなく、面白いコラボコンテンツとして受け取ってもらえる気がしています。

大澤:僕は2年ほど前に花王の柔軟剤「フレアフレグランス」で「あの人のマフラーになりたい」キャンペーンを企画しました。マフラーの目線で2.5次元舞台(漫画やアニメなどを原作とした舞台やミュージカル)で活躍する俳優の荒牧慶彦さん、植田圭輔さん、和田雅成さんの動画を見ることができて、実際に本人が巻いたマフラーもプレゼントする企画です。

今振り返ってもフェチズム全開だなと思いますが、元々は「フレアフレグランス」の認知とエンゲージメントを高めたいというお題から始まった企画。香りに興味をもってもらうために、ファンがきっと気になるであろう「推しの香り」という文脈を付与しました。2.5次元舞台で活躍する俳優の方にお願いしたのは、圧倒的にファンの熱量が高いからです。

市川:この企画を見た時に天才だなと思いました(笑)。友だちに2.5次元の舞台のファンが多いんですが、皆が狂喜乱舞していて、思い切り刺さっていたのを目撃しています。

大澤:それはめちゃくちゃ嬉しいです(笑)。ちなみに「あの人のマフラーになりたい」っていうタイトルは、ファンの方々がよく発信していた「◯◯になりたい」という口癖から。クラスタによってファンの口癖や構文ってそれぞれある気がしていて。特に熱量の高そうなファンの方やその人とつながりが濃そうな方の発信を見ていくと、こういう規則性が見つかることが多いです。

市川:なるほど。私はよくジェネレーター系のコンテンツを企画するんですが、特定のファンのためというより、ファンの気持ちを持っている(=推しがいる)ユーザーとブランドとの組み合わせ、という考え方もあるのかなと思っていまして。ジェネレーターをつくると、それを活用して推しをつくってくれる人がすごく多いんです。

たとえば花王のおしゃれ着用洗剤「エマール」の企画で「リカちゃんコーディネートメーカー」をつくりました。約1800種のリカちゃんのアイテムをほぼ全て実写で撮影して用意し、サイト上で好きなコーディネートがつくれる、というものです。何かのファンの方々は常に推しを当てはめられる文脈や、推しを投影できる依りどころを探しているところがあると思うんです。

どんな人でも自分の好きな人やものを誰かに話したい、教えたいっていう気持ちがあるじゃないですか。だから企画においてもその気持ちやエネルギーを昇華できる余白をつくるようにしていて、つくったものを誰かに共有するコミュニケーションの結果として広告的に機能して拡散してくれればいいなという感じです。

長谷川:リカちゃんコーディネートメーカー、何度もやりました......!ひとつのアイテムに色がたくさん用意されていると、ファンとしてはやっぱりメンカラ(推しのメンバーカラー)を使えるので...

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