トランジションをフレームワークに 「公共の知」としてCOP26でも展示
「COP26」プリンシパル・パートナーとなった日立製作所。2021年10月から11月にかけ、イギリス・グラスゴーの同会議展示ブースでは同社とTakramが共同で進めてきたリサーチプロジェクトに基づく「自然と人間の復興のための3つのトランジション」を先行展示した。同年11月末にはWebサイトも公開された。
「脱炭素化」という地球規模の課題に対して、広告クリエイティブは何ができるだろう。話を聞いたのは、NOSIGNER 太刀川英輔さん。同社で脱炭素化に関わるクライアントのブランディングを手がける他、21年5月にサーキュラーエコノミーのためのコンサルティングファーム ZENLOOPを創業。1月にまち未来製作所の取締役/CDOに就任するなど環境とデザインの領域を掛け合わせさまざまな取り組みを進めている。
「エコ」の概念が浸透していますが、エコロジーって本当は生態学、すなわち自然の関係性を観察する学問のことなんです。これまでは正直「環境に良いことをやっていてえらい」くらいの認識でしかなかったと思いますが、経済と自然を含めた生態系に関してはほとんど無自覚なままです。とはいえ徐々に整備もされていて、日本では2月1日に経産省が「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」の基本構想を発表しました。
ここには2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、産・官・学・民が一体となった「経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場を創造するための場」をつくるために、「2022年秋以降に、カーボン・クレジット市場等の実証実験を実施」と書かれています。これは平たく言うと、“削減した脱炭素の量が、貨幣のような価値を持つ”ということ。21年に米テスラが自社の排出権の利益で黒字化したように、日本でも炭素の取引が加速していくでしょう。「いよいよ本当に脱炭素化しないとやばいぞ」という意識が、ようやく日本社会でも求められる段階になりました。
では、その意識をどう浸透させるか。まず炭素もエネルギーも基本的には無形のものですよね。NOSIGNERもすべて再生可能エネルギーで動いていますが、電気ってそれがどこで誰につくられて、どんな風に使われているのか、そのままでは全く見えないわけです。でも人は可視化されて初めて現状を認知します。食料品にカロリーが記載されるようになって初めて、人はカロリーを意識したように。
つまり「脱炭素」という概念を社会の生態系に組み込むには、どう可視化するかが大きなテーマになります。不可視のものをいかに可視にするか。これはコミュニケーションデザインの話であり、広告とも言えますよね。自分たちが使っているエネルギーを実感させる。人々に広く浸透させていく、そういう意味でコミュニケーションデザインの手法はこの分野に求められていると思うんです。
クライアントとしても、脱炭素が価値になる以上、そこに自社の利益や上場要件がかかってきます。「我が社は脱炭素に取り組んでいる」ことを抽象だけでなく具体として拡声していく必要がある。そこにもデザインや広告の力が求められるはずです。
脱炭素の可視化と同時に、そもそも産業におけるインフラのバランス調整も必要です。モノのライフサイクルにおいて、「①資源から生産し、流通し、売る、使う」という“動脈”のインフラは、企業の利益に直結するので確立されてきました。でも一方で「②捨てる、処理する、原料に戻す」という“静脈”の...