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脱炭素社会へ 企業価値を提示するクリエイターの役割

トランジションをフレームワークに 「公共の知」としてCOP26でも展示

日立製作所

「COP26」プリンシパル・パートナーとなった日立製作所。2021年10月から11月にかけ、イギリス・グラスゴーの同会議展示ブースでは同社とTakramが共同で進めてきたリサーチプロジェクトに基づく「自然と人間の復興のための3つのトランジション」を先行展示した。同年11月末にはWebサイトも公開された。

Webサイト「自然と人間の復興のための3つのトランジション」から。

「トランジション」とは何か

2021年10月31日から11月12日にかけてイギリス・グラスゴーで開催された、国連気候変動枠組条約第26回締結国会議(COP26)。197の国と地域から約4万人の国連・政府・企業・メディア関係者が参加し、「2100年の世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える努力を追求すること」を盛り込んだ「グラスゴー気候合意」が採択された。

日立製作所は今回、日本企業では初となるプリンシパル・パートナーとしてCOP26に参加。現地では日立グループの展示ブースのひとつのコンテンツとして、「自然と人間の復興のための3つのトランジション」が先行公開された。このコンテンツでは、気候・生物多様性・人間の生活という3つの領域にフォーカスし、あるべき未来の自然と人間の在り方をイラストレーションやサウンドなどを通じて示している。11月末にはWebサイトとしても公開し、誰でも閲覧することができる。

この企画の根幹を成しているのは、日立製作所とTakramが2019年末から共同で取り組んできたリサーチプロジェクトだ。東京・ロンドン・ニューヨークで実施したもので、世界中のデザイナーや思想家などに、自然や環境に対しどのような新しいアプローチをしているかをリサーチ。新たな自然の捉え方、人間と自然の関係を人類学の発想から改めて考えていくことが狙いだ。

その中で見出したのが「トランジションのためのフレームワーク」というもの。トランジションとは「移行」を意味し、プロジェクトチームはサステナブルな社会を目指し変化を遂げようとしている現在を「移行期」と捉えて、来るべき社会についてデザインや人類学、哲学の視点を交えて調査・分析・構想を行っている。

「今でこそ“トランジション”というワードを目にする機会がありますが、当時はまだ珍しかった。そのヒントとなったのは、システムイノベーションやサステナビリティを専門とするマンチェスター大学のFrank Geels教授による理論です」と、一連のプロジェクトを牽引する日立製作所 研究開発グループ 環境プロジェクト 主任研究員 佐々木剛二さんは説明する。

自然と人間の新しい関係を捉える

佐々木さんは文化人類学者として日立で研究開発に取り組んでいる。コロナ・パンデミック発生前の2019年ごろから「サステナビリティ分野で世界のリーディングカンパニーを目指す日立にとって、望むべき未来に関する議論のためのマニフェストが必要ではないか」と考えていた。「当時、既にSDGsは注目されていたものの、実際に目指すべき未来がどういったもので、どのようにたどり着けばいいのか──世界の変革に関わる主体的なメッセージの提示が必要と感じていました」。

そこで前職のプロジェクトでつながりがあったことから、Takramに相談を持ちかけた。人々の議論を喚起していくスペキュラティブデザインを専門とする、Takram Londonの牛込陽介さんと共にリサーチを進めることに。

「Takramが通常取り組むプロジェクトに比べてアカデミックな内容ですが、テクノロジー×クリエイティブにまつわるコンサルティングに関わる立場として、その原点となるビジョンや思想についてリサーチするというのは意義があると考えています。人々の消費を刺激するデザインというより、“考えてもらうためのデザイン”であり、“思想や世界観を伝えるデザイン”だと捉えています」(牛込さん)。

同時進行していた新型コロナの拡大も「自然と人間の関係とその未来について構想していくべきだ」という考えを後押しした。「当時の状況は、自然と人間の新しい姿を発見する契機になりました。自然を壊すこと、それはつまり人間の生存基盤を壊していくこと。コロナの拡大はある意味で現代の自然と人間の関係の象徴でした。さらに、世界では社会不安やメンタルヘルスの問題、特に当時はBLACK LIVES MATTERといった動きや分断などあらゆる歪みが噴出していた時期。次なる秩序が見えないからこそ、ラディカルな形で未来を想像することに意味があると考えました」(佐々木さん)。

「矢印」がモチーフのサイトに

前述のリサーチプロジェクトを経て、2021年3月にはWebサイト「Transitions to sustainable futures」を発表した。主なターゲットは学生や20~30代のビジネスパーソン。気候変動やエネルギー問題などサステナビリティにまつわるオピニオンリーダー12組を対象としたリサーチから、9つの「トランジション」を示している。

たとえば京都議定書の時代から日本で活動する非営利団体「気候ネットワーク」に実施したリサーチから、サイト上では活動のキーとなるフレームワーク(日本の地方開発における不公正)を提示。同団体が考える「現在の世界」「あるべき世界」などを示す「トランジションダイアグラム」も掲載した。

「単に日立とTakramだけで考えるのではなく、世界で次の時代をつくろうという...

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